不調改善

江戸の天才観相学者・水野南北に学ぶダイエット健康術|腹八分目、米より麦、発酵食品を!

《恐るべきは食、慎むべきは食。嗚呼、食!》──満足に食事ができれば、それだけで充分という時代に、“飲食を避けよ”と警告した人物がいた。その慧眼は現代人も陥りがちな「肥満の落とし穴」も見抜いていた!

水野南北の肖像画『南北相法極意抜翠』1812年版より
水野南北の肖像画『南北相法極意抜翠』1812年版より
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水野南北とは?

「月曜だけ断食」「プチ断食」「半日断食」「1日おき断食」──いま、さまざまな断食ダイエットが流行している。

「かつて断食は、宗教者の修行の一環として行われるものでした」と語るのは、『少食開運論』の著者でブロガーのロッキー山田さんだ。

「江戸時代中期、“健康のための断食”を行った水野南北という人物がいます。彼が唱えたのは“食を慎めば道が拓ける”というシンプルな理論でした。文字の読み書きができなかった若き日の彼は、自ら食生活をさまざまに工夫し、実体験を積み重ねて、その真理に到達したそうです。“あれを食べるべき”“これは避けるべき”など細かいダイエットテクニックに走りがちな現代人も、彼のシンプルな大原則に立ち戻るべきでしょう」

◆“人の運は食にあり”と『相法脩身録』を出版

水野は1757年、大阪に生まれたとされる。10代のうちから酒に浸り、博打やけんかに明け暮れた。

「ついに牢屋に入れられますが、そうした人生経験を生かし、また、出所後の修行を経て、人の顔、姿、骨格などからその人の性格や運命を判断する『観相家』となり人気を博します。50才頃、断食と水行で“人の運は食にあり”と悟り、『相法脩身録』という書物を世に出しました。当時としては長寿の78才で没したとされます」(ロッキー山田さん)

【水野の教え:その一】腹八分でやせ体質&アンチエイジングに

『南北相法極意抜粋』1930年版より。ロッキー山田さん所蔵
『南北相法極意抜粋』1930年版より。ロッキー山田さん所蔵
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《食の量が分限より少ない人は(腹八分目)、相貌が悪くても吉となります》 《小食で食が規則正しい人は、たとえ貧悪の相があっても立場にふさわしいチャンスがあって長寿です》(以下、《》内は『新修 南北相法修身録』〈訳・水沢有、東洋書院刊〉より抜粋)

◆体内時計のリズムで食事をする

水野がそう繰り返した基本姿勢は、現代医学と照らし合わせても理に適っている。虎の門中村康宏クリニック院長の中村康宏さんが解説する。

「食べすぎないこと、そして自分の中に備わる体内時計のリズムで規則正しく食事をすることは、やせ体質の土台になります。江戸時代は1日2食、現代は1日3食ですから、それだけ一度の食事の量を節制しなければなりません。さらに現代の食事の方が栄養価は高いので、ますます食べすぎは肥満を招きます。また、体内時計とズレた食生活をすると、毎日違った時間にホルモンなどを分泌させることになり、体に無理をさせる。それで代謝が落ちればカロリーの消費量が下がり、脂肪がつきやすくなります」

◆ケトン体の生成により老化予防にも

200年以上前、水野は独学で、現代でいう「時間栄養学」を導き出していたのだ。いますぐ乱れた体内時計はリセットした方がいい。

「朝は必ず日光を浴びてください。そして、朝食は6~8時、昼食は12~16時、夕食は18~20時の間に摂りましょう。このサイクルを続ければ自然に体内時計は修正されます」(中村さん)

自身も20kgのダイエットに成功した管理栄養士の麻生れいみさんは、やせる方法を研究するために水野の本を参考にしたという。

「腹八分目を意識し、空腹感を味わう生活をすることは、やせ体質になるだけではなくアンチエイジングにもつながります。満腹にならない状態を続けると、糖質が足りないときの代替エネルギーである『ケトン体』という物質が生成されやすい。ケトン体は長寿遺伝子を発現させるので、老化予防になるのです」(麻生さん)

【水野の教え:その二】パンやパスタは全粒粉のものを

玄米ごはん
麦や玄米、雑穀がおすすめ(写真/アフロ)
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《私自身、生涯米飯を食べません。米の形のあるものは餅類も食べません。一日に麦一合五勺とし、酒は大いに好みますが一日に一合と定めています》

◆江戸時代にあった”糖質制限ダイエット”

現代でも糖質制限ダイエットが流行中だが、すでに江戸時代の水野も取り入れていたようだ。

「食事をすると血糖値が上昇し、それを下げるためにすい臓からインスリンが分泌されます。インスリンは血中の糖分を脂肪に変え、体内にため込むように働きます。特に、白米など糖質を多く含む炭水化物は、血糖値を急に上げるためその分多くのインスリンが分泌され、脂肪の蓄積に拍車がかかることになります。麦は白米に比べ血糖値の上昇が緩やかなので、太りにくいのです。

また、水野さんの時代には『江戸煩い』という言葉がありました。なぜか江戸の人に『脚気』が多く、地方に行けば少ない。その謎は明治時代に解明されました。江戸では精製された白米が流行っていたので、雑穀に含まれるビタミンやミネラルが摂取できていないことが原因でした。それを江戸時代に気づいていた水野さんは本当にすごい」(麻生さん)

麦を食べるメリットはそれだけではない。

「麦には食物繊維が多く含まれます。食物繊維を含む食材は腹持ちをよくするので食事量を抑えることができます。ほかには、玄米や雑穀がおすすめ。パンやパスタなどは、精製された小麦粉を使ったものではなく、全粒粉を使ったものを選ぶといいでしょう」(中村さん)

◆お酒は「一日一合」を

お酒好きにとって気になるのは「一日一合」の記述だろう。

「アルコールの摂取は死亡率を上げるといわれていますが、摂取量が少なすぎても死亡率は高くなります。アルコールには血流をよくしたりストレスを抑えたりする効果がある。適量を飲むのがいいでしょう。日本酒なら一合。ビールなら350ml、ワインなら100ml程度が目安です」(中村さん)

【水野の教え:その三】発酵食品は1日1品食べる

味噌と大豆
発酵食品を積極的に摂りたい(写真/アフロ)
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《味噌、醤油、酒、酢の類は本を腐らせて精製してから食べます。腐っているといっても手を加えてから食べるならば、食あたりになることはありません》

水野は食品の中でも特に発酵食品に注目した。

「発酵食品を食べると腸内環境が整い、便秘や消化不良が解消されるのでやせます。さらに、腸内環境を良好に保つことで脳が刺激され、自律神経が安定します。自律神経は代謝をコントロールしているので、安定させることで太りにくい体質になります」(中村さん)

◆腸内環境キープには善玉菌がカギ

腸内環境を良好に保つには、善玉菌を増やすことが大事だ。

「発酵食品には、ビフィズス菌や乳酸菌など、腸内の善玉菌のえさになる菌が多く含まれています。善玉菌のえさになる菌が腸内で活動できるのは約3日間なので、1日に1品は発酵食品を食べるといいです。ヨーグルトをはじめ、納豆、キムチ、みそ、しょうゆ、塩麹、甘酒などから摂取できます」(麻生さん)

200年以上前の天才観相家が経験則から見出した「少食開運論」には、現代のダイエット術に使えるノウハウが詰まっていた。今からでも、チャレンジしてみては?

※女性セブン2020年9月10日号

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