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大泉洋主演で話題!コロナ禍の閉塞感を打破…型破りな主人公らの“騙し合いバトル”

3月26日より公開中の大泉洋(48才)主演の映画『騙し絵の牙』。これまでに数々の話題作を世に送り出してきた名匠・吉田大八監督(57才)の最新作であり、「名優たちの演技合戦は鳥肌もの」といった声も多く聞かれる超一級のエンターテインメント作品です。

「騙し絵の牙」劇中写真
(c)2021「騙し絵の牙」製作委員会
写真7枚

映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが、映画の見どころを解説します。

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【見どころ1】大泉洋が、自身に「当て書き」された人物を妙演

本作は、ミステリー小説『罪の声』などの作家・塩田武士(41才)が、大泉洋を主人公としてイメージして当て書きした同名小説が原作。累計発行部数24万部超えを突破したベストセラー小説が、実際に大泉を主演に迎えて映画化されました。通常「当て書き」とは、脚本の執筆者が特定の役を誰が演じるのかをあらかじめ想定し、そのキャラクターの設定やセリフを書くこと。

しかし本作の場合は、原作者が小説の段階で大泉をイメージして主人公像を作り上げています。小説版『騙し絵の牙』は、発案当初から映像化することを視野に入れて企画された異例の文芸作品と言えるでしょう。これを、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)や『羊の木』(2018年)などの吉田大八監督が映画化したのです。

「騙し絵の牙」劇中写真
(c)2021「騙し絵の牙」製作委員会
写真7枚

◆『騙し絵の牙』あらすじ

物語の舞台は、崖っぷちに立たされている大手出版社「薫風社」。出版不況の煽りに加え、創業一族の社長が急逝し、次期社長を巡る権力争いが勃発してしまいます。そんな中、廃刊の危機にあるカルチャー誌「トリニティ」の編集長・速水(大泉)は、同誌の再起のため驚くべき手を次々と打ち、周囲を翻弄していきます。やがて、新人編集者・高野(松岡茉優)を中心に、小説家、人気ファッションモデルらを巻き込んだ“騙し合いバトル”を繰り広げていくことになります。

「騙し絵の牙」劇中写真
(c)2021「騙し絵の牙」製作委員会
写真7枚

主人公・速水は、ときに部下たちに正論で発破をかけたかと思いきや、ときには目上の者を出し抜き、人を食ったような態度まで取る男。その型破りな言動の連続に、観ている側はつい閉口してしまいますが、それだけに彼から目が離せず、なんだか憎めない存在に思えてきます。周囲をアッと驚かせるエンターテイナーぶりは、軽快かつチャーミングで、さすが、当て書きされただけあり、大泉本人のパブリック・イメージとも重なるように感じます。

2017年の小説発売当時には、「読者の頭の中で大泉洋が勝手に動き出す」と話題になったようですが、その人物が実体を得たわけですから、魅力的に映らないはずがありません。これ以上ない、文字どおりの“ハマリ役”だと思います。

【見どころ2】佐藤浩市、國村隼、松岡茉優らの演技合戦がたまらない

本作の大きな注目ポイントの一つが、俳優陣による怒涛の演技合戦です。本作の骨格となっているのは“騙し合いバトル”。誰かが表立って動いて観客の注意を引いているとき、他の誰かが暗躍しています。そのため、周囲を出し抜こうとする速水の「何か仕掛けてくるぞ……」という怪しさにばかり目を向けていると、他の出演者の動きを見落とすことになるでしょう。

注意深く見ていないと、見抜くのは難しいかもしれません。編集や音響など、映画作りにおける技巧的な面ももちろんありますが、優れた俳優陣の手に汗握るぶつかり合いが、これを実現させているように思います。

「騙し絵の牙」劇中写真
(c)2021「騙し絵の牙」製作委員会
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◆主役級の存在感を放つ松岡茉優

当て書きの大泉の演技力や、大泉演じる速水の無双ぶりに圧倒されますが、物語の流れに合わせて、大泉と肩を並べるほど凄まじい存在感を放っているのが松岡茉優(26才)です。口コミでは「主演は松岡茉優だ」といった声も多く上がるほどで、これには大いに納得です。

彼女が演じる高野は、速水のそばで新人編集者として誰よりも翻弄される存在。映画館の暗闇の中で、観客が大胆不敵な速水の言動にエキサイトし一喜一憂するのを、高野を演じる松岡が一手に引き受け、体現しているように思います。

「騙し絵の牙」劇中写真
(c)2021「騙し絵の牙」製作委員会
写真7枚

そんな大泉と松岡を囲む面々も、大変なクセモノ揃い。まだ俳優としてのキャリアは短いながらも、舞台出演などを重ね着実に技術を磨いている宮沢氷魚(26才)が新人小説家役として出演し、対する大御所小説家役には國村隼(65才)が登場します。人気モデル役を演じる池田エライザ(24才)は、「トリニティ」の行方を左右するキーパーソンを担っていますし、速水を裏で操ろうとする「薫風社」の専務役には佐藤浩市(60才)や、彼と敵対する常務役の佐野史郎(66才)は、重厚感溢れる演技で作品に威厳をもたらしています。

そのほか、木村佳乃(44才)、小林聡美(55才)、中村倫也(34才)、斎藤工(39才)、塚本晋也(61才)、リリー・フランキー(57才)ら日本映画界をけん引する幅広い世代の俳優が、“裏がありそう”なキャラクターに扮して入り乱れますが、それでいて作品全体としては端正な印象。緩急自在な言葉の応酬は息つく暇もなく繰り広げられ、上映時間の113分間は、あっという間に過ぎ去っていくことでしょう。

【見どころ3】型破りな男・速水が身をもって示す人生の“真理”

現在、コロナ禍の自粛生活で、代わり映えしない日常を淡々と過ごさざるを得ない人も多いと思います。ちょっと刺激が足りない──そんな日々に、強烈な刺激を与えてくれるのが本作です。映画そのものから得られる興奮はもちろんですが、筆者自身は大泉演じる速水の生き方から大きな教訓を得ました。

彼は、「面白い」事にとにかく目がない男。速水の生き様は、「今面白いことが無いのなら、面白くしてしまえばいい」、そんな人生の“真理”を教えてくれるようでした。本作は出版社が舞台とあって、一般の方々には馴染みがなく、あまりピンとこない人も多いかもしれませんが、型破りな男・速水が身を持って体現する“真理”は、出版業界に限らず、さまざまな職業やライフスタイルの人々の胸に刺さるのではないかと思います。

「騙し絵の牙」劇中写真
(c)2021「騙し絵の牙」製作委員会
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スピード感溢れる物語展開で、年齢や職業に関係なく、誰でも楽しめること間違いなしの本作。鑑賞後は、良い意味で観る人それぞれのイメージを裏切ってくれることでしょう。速水という男を信じて乗ってみるか、それとも疑いの目を向けるか、どちらにしても、彼の“策略”にまんまとハマってしまう自分を楽しみながら、鑑賞して欲しい。

→映画『騙し絵の牙』の詳細はコチラ(公式HP)

文筆家・折田侑駿さん

折田優駿さん
写真7枚

1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。折田さんTwitter

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