趣味・カルチャー

荻野アンナさん、豚グッズ&石の収集に夢中「人生には適度な無駄が必要」【趣味のススメ】

老後資金のことなどを考えて節約ばかりに気をとられてはいないでしょうか。安定した将来を確保するのは大切ですが、過度な節制はストレスになることもあります。小説家で慶應義塾大学文学部教授の荻野アンナさん(64歳)は、人生には無駄も必要だと、自身の収集趣味を笑いながら語ってくれました。

収集趣味は“トントン拍子”の縁起物とパワーストーン

荻野さんには2つ収集しているものがあります。「豚グッズ」と「石」です。

「豚グッズは学生時代から集め始めました。“トントン拍子の縁起もの”だからと人さまには説明していますが、実際は研究している作家のフランソワ・ラブレーの作品がきっかけです。空飛ぶ巨大な豚が出てくるのですが、目はザクロ石のように赤く、耳は青いエメラルドのようで、尾っぽが黒く、足はダイヤモンドのよう。それが印象的で豚を集め始めました。

豚グッズは数えるのが怖いくらいの量になりました。まず、玄関にずらりと豚が並んでお出迎えしてくれます。客間にも空飛ぶ豚の小さな置物があって、その周りにも何体も鎮座しています。それ以外にも“2軍”として大量に豚グッズをしまっています。“収集”するとスペースがなくなって“収拾”がつかない。とほほ…」(荻野さん・以下同)

ぶたグッズを抱っこしている荻野アンナさん
豚のぬいぐるみを抱っこしている荻野アンナさん
写真4枚

“不気味可愛い”豚が好き

犬や猫のグッズと違って豚は数が少ないため、初めは見かけるたびに購入していたそうですが、映画『ベイブ』などの影響で豚グッズも増えたため、今では厳選しているそうです。

「可愛いだけの豚はいまひとつ。元々が“豚の怪物”からこの趣味はきているので、“不気味可愛い”ひと癖ある豚が好きです。豚集めをしている人は珍しいのか、豚を見かけると私を思い出してくれて、よくプレゼントしていただけます。最高のコミュニケーションツールです」

きっかけは大腸がんになったときの入院

石を集めだしたきっかけは、2012年に大腸がんで入院する際の出合いでした。

「入院が1週間ほどあるので、読む本を購入しようと入った書店で鉱石フェアをしていました。鉱石辞典が気に入って入院中に眺めているうちに、鉱石にも宝石にも興味を持ちました。今は欲望をコントロールしていますが、オークションで競り勝ってあとで反省するなど、度が過ぎる時期もありました(苦笑)」

石をみつめる荻野アンナさん
石をみつめる荻野アンナさん
写真4枚

石の輝きが胸に迫る

「人間ははかない存在で、どんなに長く生きても115年。石はそれと比べると永遠に近いくらいの命があります。地球の歴史を凝縮したような姿は、生身の人間にとって、その輝きが胸に迫ります。パソコンを打つ指に石が光っていると元気をもらえます。私にとって、石は全てパワーストーンです」

自身の作品に活かされることも

収集趣味は、作家としての仕事にも活きています。

「豚グッズはエッセイ本『空飛ぶ豚 アンナのブタ・コレ』で秘蔵コレクションを紹介させていただきましたし、今年2月出版の『老婦人マリアンヌ鈴木の部屋』では、宝石集めの経験が役に立ちました」

宝石の収集癖のある人物が登場

「宝石の収集癖がある人物が登場するのですが、オークションで勝たなくていいのに競り勝ったり、酔って買う気のないものを買いそうになったりと、いろんな目にあうのですが、それは全て私の実体験です。

そのゲラを見ているうちに、宝石に関しての情報が正しいか不安になって、町の宝石屋さんに確認しに行ったんですね。結局そこで指輪を1個買ってしまって、先に印税を使ってしまいました(苦笑)」

人生には「適度な無駄」が必要

趣味は人生の潤いになると荻野さんは話します。

「フランス語で趣味はグー(goût)というのですが、グーは趣味だけではなくて鑑識眼、物を見る力も意味しています。趣味を持って取り組むことでグーが育つ、目が養えると思います。それが人生を豊かにしてくれたり、生活に潤いを与えてくれると思うので、グーを持つとグーですよ(笑い)」

ぶたグッズと一緒に 荻野アンナさん
「人生には無駄も必要」と語る荻野アンナさん
写真4枚

趣味は人生のスパイス

「もし趣味がなければ、つまらない人生になってしまいそうですね。一見、役に立たない、ない方がスペース的にも広がるのに、収集という無駄なことをしています。でも無駄がないと生きていても楽しみがありません。人生には適度な無駄が必要です。

趣味は人生のスパイスです。スパイスがなくても食べられるけど、スパイスが効いていたほうがおいしいですよね」

この人に聞きました:小説家・荻野アンナさん

荻野アンナさん
小説家・荻野アンナさん
写真4枚

1956年11月7日生まれ。神奈川県出身。1991年『背負い水』で第105回芥川賞受賞。2007年フランス教育功労賞シュヴァリエ叙勲。慶應義塾大学文学部教授。2005年に落語家の第11代金原亭馬生に弟子入り。2009年以降、金原亭駒ん奈として高座に上がっている。近著に『老婦人マリアンヌ鈴木の部屋』(朝日新聞出版)がある。

取材・文/小山内麗香

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