エンタメ・韓流

今必見の映画『ドライブ・マイ・カー』、西島秀俊、岡田将生らの“新たな顔”に出会える

8月20日より公開中の西島秀俊(50才)主演の映画『ドライブ・マイ・カー』。村上春樹(72才)の同名短編小説を原作とした本作は、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、日本映画として初の脚本賞を受賞。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
写真10枚

世界が注目する才能・濱口竜介監督(42才)による卓抜したシナリオと演出、それを体現する俳優たちの好演が光る、必見の作品となっています。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿が解説します。

練り上げられたシナリオに唸る179分

本作は、作家・村上春樹による短編小説集『女のいない男たち』(文藝春秋)に収録されている『ドライブ・マイ・カー』を、『ハッピーアワー』や『寝ても覚めても』などの作品が国内外で高い評価を得てきた若き鬼才・濱口竜介監督が映画化したもの。

カンヌ国際映画祭では脚本賞だけでなく、国際映画批評家連盟賞やAFCAE賞、エキュメニカル審査員賞を受賞し、世界中から注目を集める作品となっています。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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主人公は”自分で運転すること”を大切にする舞台俳優

あらすじはこうです。愛する妻・音と幸せな日々を送っていた舞台俳優であり演出家でもある家福悠介。しかしある日、音はとある秘密を残してこの世を去ってしまう。それから2年後、演劇祭の演出を任されることになった家福は、自身の愛車で開催場所の広島まで向かいます。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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彼にとって「車」は妻との思い出が染み付いた大切なもの。“自分で運転すること”をとても大切にしています。しかし広島では、寡黙な女性・渡利みさきが専属ドライバーとしてつくことに。そして、自身が審査するオーディションでは、かつて音から紹介された俳優の高槻耕史と再会します。

家福を取り巻く環境に少しずつ変化が訪れ、やがて彼がそれまで向き合うことを避けてきた“あること”に気付かされていくことになるのです。

50ページしかない原作の短編小説を見事に映像化

作品を観てまず驚くのは、本作のシナリオの練り上げられ方。原作の『ドライブ・マイ・カー』は約50ページほどしかない短編小説。『女のいない男たち』に収録されている『シェエラザード』『木野』の2編もモチーフとして取り入れられているとはいえ、それが179分の大作となっているのです。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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『ドライブ・マイ・カー』を主軸に、他の2編の良点を換骨奪胎し、原作では描かれなかったエピソードが導入され、各キャラクターの人物造形も緻密なものとなっています。

原作を既に読んでいる人なら、映画化された本作の豊かさと奥深さ、何よりも読後感との大きな違いに驚かされることになるでしょう。だからといって、原作と別物になっているわけではありません。むしろ原作の“核”がより鮮明になっています。この映画体験を経ることで、原作への理解も深まるかもしれません。そう思わされるほど、卓抜したシナリオ構成になっているのです。

濱口の演出が生む、テレビでは見せない俳優たちの“新たな顔”

2015年公開の『ハッピーアワー』で、主演女優4人全員が第68回ロカルノ国際映画祭にて最優秀女優賞を獲得するという偉業を成し遂げた濱口監督。彼女たち自身の持つ魅力がスクリーンを通して海外の観客にまで届いたというのはもちろんありますが、やはり濱口監督の演出術があってこそのものでしょう。

主演を務めた田中幸恵、菊池葉月、川村りら、三原麻衣子は、十分な演技経験があるわけではありませんでしたが、俳優が“カメラの前に立つ”とはどういうことなのか、そして監督が誰かに“カメラを向ける”とはどういうことなのか、このことに対する監督の考察や姿勢が作品から垣間見えるものでした。それを最も身近で共有されたのが、俳優たちなのでしょう。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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今作では、主演の西島をはじめ、三浦透子(24才)、霧島れいか(49才)、岡田将生(32才)ら第一線で活躍するプロの俳優が揃っています。しかしそんな彼らもまた、これまでの出演作には見られなかった、“新たな顔”を覗かせています。主人公の家福を演じる西島は、妻と過ごす幸福な日々と、彼女を失ってからの日々との変化を絶妙に表現しています。

妻を失い2年の時を経て、家福自身は一見変わっていないように見えますが、時折見せる笑みは妻がいた頃とはまったくの別人にも見える。静かな表情の動きと声の抑揚によってスクリーンに刻まれる家福というキャラクターは、テレビ作品で西島が表現してきたものとは大きく異なります。西島に限らず、俳優たちの“映画だからこその表現”を必ずや堪能できることでしょう。

岡田将生の語りの巧みさとニヒルな表情に注目

そんな俳優たちの中で、筆者が度肝を抜かれたのが岡田将生の演技です。映画やドラマ、舞台にと今絶好調な岡田は、作品ごとに“新たな顔”を見せてくれる印象があります。不老不死の研究をする研究者や気難しい弁護士、鳴かず飛ばずの卑屈な俳優など、アクの強いキャラクターを次から次へと自身のモノにしています。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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本作でも、岡田が演じる青年・高槻の放つ剣呑な空気は観客に緊張感を与え、物語の大きな転換点をいくつも生み出します。特に素晴らしいのが、高槻が家福に延々と語りかけるシーン。その語りの巧さもさることながら、スクリーンいっぱいに映し出される岡田のニヒルな表情には、つい息を止めてしまったほどです。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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異なる国の言語が飛び交う“多言語劇”の魅力

本作には、日本の俳優だけでなく韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、ドイツ、マレーシアからオーディションで選ばれた海外のキャスト陣が出演しています。彼らの主な役どころは、家福が演出を手がける演劇作品を共にクリエーションする者たち。映画の中で立ち上がっていく劇中劇では、さまざまな言語が飛び交う“多言語劇”が展開するのです。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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この物語の軸になっているのは、家福が向き合うことを避けてきた“あること”に、人々との交流を経て、向き合い、受け入れ、大きな喪失感を抱えながらも、それでも「生きていこう」というメッセージです。これは劇中劇として家福が手がける、ロシアの劇作家アントン・チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』とも重なるもの。ここで活きてくるのが、“多言語劇”です。

共通の言語が無い中でも通じ合う

普通、双方の言語を理解していなければ、韓国語と日本語とでの会話は成り立ちません。しかし劇中劇の中では、共通の言語が無いなかでも意思が通じ合っています。ここで気付くのが、相手との意思疎通を図るためには、積極的に相手の言葉を理解しようと努めるべきだということです。

『ドライブ・マイ・カー』劇中写真
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
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同じ言語を話す者同士でも、認識の齟齬は生まれてしまいます。相手の心の中まで覗くことはできません。自分の主張以上に、相手の声や声にならない誰かの声に積極的に耳を傾けることが大切です。他者に理解しようとすることは、ひるがえって自分自身に真剣に向き合い、自分への理解を深めることにも繋がるのだと気付かされます。この多言語が飛び交う物語世界の中で生きる人々を見ていて、そう強く思わされました。

→『ドライブ・マイ・カー』(公式HP)

◆文筆家・折田侑駿さん

折田優駿さん
文筆家・折田優駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk

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