人間関係

離婚原因「一緒にいる意味が見い出せない」の裏にある本当の理由――夫婦関係がうまくいくカギを『夫のトリセツ』著者が解説

妻を寂しがらせる、夫の問題解決のための会話

多くの男性は、ゴール指向問題解決型という回路を優先して使います。ゴール(目的、目標)に意識を集中して、合理的な問題解決を急ぐ回路です。

長らく狩りをしながら進化してきた男性脳。「目標に意識を集中して、問題解決を急ぐ」のは、荒野に出て狩りをしたり、縄張り争いをするには不可欠のセンスなので、この回路を優先する男性がより多く生き残ってきたということなのでしょう。

このため、対話でも、ゴールが何よりも気になります。この話の目的は何か、問題解決すべきことはいったい何なのか。そんな気持ちで一心に相手の話に耳を傾けているのです。

このため、ゴールが見えない話は、男性脳には何の意味もありません。自分から仕掛けることなんて、夢にも思わないはず。

問題解決ためにしか会話をしないこと。「○○がない」「○○はまだか」「どこへ行く」「いつ帰る」「お前はなんでそうなんだ」とか。

実は、これが、一緒に暮らす女性を、寂しがらせる理由なのです。

「目的のない話」の目的はただ相手と話すこと

女性たちは、女子会のはじめに、「さっき、駅の階段でこけそうになった」とか「○○を買おうと思ったのに、時間がなくて買えなかった」とか「今朝、あなたの夢を見た。内容は覚えてないけど」みたいな、オチも蘊蓄もない話を交わし合います。男性から見たら、こんな情報価値のない話、なぜするのか理解に苦しむところでしょう。

「目的のない話」にも、実は目的があります。脳は、無駄なことは一切しないから。「目的のない話」の目的は、ただ相手と話すこと。

夫婦
「目的のない話」の目的は?(Ph/GettyImages)
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つまり、女性たちは、会議や女子会の前に、「あなたと話したい」を表明するために、「目的のない話」をプレゼントし合っているのです。

「目的のない話」は毎日できる愛の告白!

「目的のない話」は、「あなたと話したい」の意思表示。
家に帰ってきた夫が、なんでもないことを話してくれたら(例えば、「○○さんとこのもみじが真っ赤だったな。きみも見た?」とか、「お昼に麻婆豆腐食べようと思ったら、前の人で売り切れ。がっかりだよ」とか、「今日は、信号がことごとく青でさ」とか)、愛おしくない?

夫の「なんでもない話」は、愛の告白にも匹敵する、と私は思います。

夫婦で、なんでもない話が交わせる2人になること。

子育てを終えた2人が、そこから長い人生を共に歩いていくための、大事な大事な課題です。

わが家は、息子が、「なんでもない話」の達人。「肉屋のコロッケって、おいしいよね。ラードで揚げたやつ」とか「駅前の交差点、風がすごくてさ」とか。ときには、「月がきれいだよ、一緒に見よう」「雨がすごいよ。一緒に見ようよ」とベランダに誘ってくれました。社会人になっても。今も、およめちゃんと、そんな会話をずっとしています。

「なんでもない話」ができる夫。柔和な顔で、「今日、自分に起こったなんでもないこと」を妻とシェアしようとする夫。楽しい話であれ、悲しい話であれ、悔しい話であれ。そんな夫を、女は手放さない。そうでしょう?

男性たちは、絶対に、このことを知っておくべきです。

夫が「なんでもない話」をできるようになるには?

わが家の夫は、基本は対話クラッシャー(壊し屋)です。

こないだも、私がちょっと失敗したとき、しかめっ面をしながら「あ~、気をつけないから!」と言ったので、「セリフが違うでしょ」と言いました。「大丈夫? 気をつけてね、でしょ」と。「この年になったら、ことばは相手のために紡ぐもの。失敗して痛い思いをしている妻に、追い打ちをかけてどうするの。あなたが失敗したとき、私がなんて言ってる? 『大丈夫? 手伝おうか?』でしょ」

そうしたら、神妙な顔をして、「これ、ママの目玉焼きだよ。食べる?」と声をかけてきました。息子が焼いた目玉焼きで、私の分なのは百も承知なのに(苦笑)。「相手のためにことばを紡ぐ」をやってみたのでしょうね。

夫が、「なんでもない話」を妻にプレゼントできない理由は、彼の母親がそれを息子にしなかったから。

母と子供
「なんでもない話」には”訓練”が必要?(Ph/GettyImages)
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私は、息子が幼いときから、これをしていました。将来、大人になった彼と、「なんでもない話」を交わせる仲になりたかったから。

ときには「後輩が、気が利かなくて、とほほだよ」とか大人の愚痴も。「気が利かないって、どういうこと?」と聞かれて説明すると、「あ~、保育園にもいる~」と共感してくれたり。「あ~、あなたのおかげで明日も頑張れるわ」と抱きしめたのを覚えています。

息子は、15歳の誕生日に、「働く母で寂しかったよね、ごめんね」と謝ったら、「そうだね、小さなときは毎日、ハハ(彼は私をそう呼ぶ)を待ってた。でも、もう一度生まれてきても、働くハハがいい。一生懸命でかわいかったし、なにより、外の空気を持ってきてくれるのがよかった」と言ってくれました。

「なんでもない話」=「彼と一緒にいない時間に、私に起こったことの話」は、息子の脳には、そんなふうに映っていたのだなと胸がいっぱいになりました。

なんでもないことを話して、共感を教えて

こういう経験のない夫に、「なんでもない話」を、ぼんやり期待しても無理。優しい「相手のためのことば」なんて、一生出てきません。

彼の母親がサボったことを、妻がしてやらなければ。

なんでもないことを話してやって、その答え方(まずは共感)を教えてやる。夫が何か言ったら、文句で返さずに、「大丈夫?」「ありがとう」を降るほどあげる。脳に入れないことには、出てこないのです。

根気が要りますが、人生100年時代、夫婦生活は70年以上にも及びます。気持ちいい対話の相手にしておかないと、自分が寂しい思いをするばかりです。