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【64歳オバ記者 介護のリアル】93歳母ちゃんのために88歳叔母を東京から茨城に連れて行ったら疲労困憊になった話

オバ記者
母ちゃんのために叔母を東京から茨城に連れて行くことを決意
写真8枚

ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、今年8月から茨城の実家で始めた93歳「母ちゃん」の介護。ほとんど寝たきり状態だった要介護5の母ちゃんは、今では歩行器を使って外を歩けるまでに回復。今回は、東京に住む母ちゃんの妹(88歳)を茨城に連れて行くまでの道中について綴ります。

* * *

著書の“サイン会”のため上京

里帰り介護している私が上京するときは、まずは10年前まで母親が利用していた原チャにまたがり、農道を20分カッ飛ばしてJR水戸線の大和駅へ行かねばならない。

「JR水戸線の大和駅、ですか? え~と、大和駅ね」

東京のみどりの窓口でシニア割のきっぷを買おうとすると必ず、窓口でPCに向かっているお兄さんの手元が忙しくなるの。そりゃあね、水戸線は単線だし、大和駅は無人駅で改札もない。階段を6段のぼったところがホームって、ローカル線好きの鉄っちゃんも寄り付かないほどのひなび過ぎた駅。「聞いたことない!」って、みどりの窓口のお兄さんの焦りっぷりといったら、気の毒になるほどだ。

JR水戸線の大和駅
階段を6段のぼったらホーム
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今回の上京の目的は、ん10年ぶりに書いた単行本、『で、やせたの?』(小学館刊)で紹介した目白の靴店『えこる』で、「本にサインして」とお客さまの何人かから声が上がったからなの。ええ、ええ、書きましたとも。積み上げた本に「オバ記者 野原広子」と。

オバ記者
『えこる』のSさん夫婦
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そのついでに、もう何年も履いているショートブーツの修理をお願いして、靴の考案者・Sさんのお話を伺い、福島出身の奥さまE子さんから郡山名物の「いかにんじん」をいただいたりして、10年前から何ひとつ変わらない空気が流れるんだよね。

で、肝心の『で、やせたの?』のほうだけど、心配してちょくちょく書店のダイエットコーナーを覗いてくれる友人は、「ダイエット本の常識を全部ひっくり返すテロ本に見える」と言うんだわ。テロ本にご興味がある方は、ぜひ書店で開いてみてね。

母ちゃんが「妹に会いたい」

上京のもうひとつの目的は、「5人きょうだいのうち、ひとりだけ残った妹に会いたい」という母ちゃんの願いを叶えるために新宿区でひとり暮らしをしている88歳の叔母を茨城まで同行すること。

オバ記者の母と叔母
お揃いのパジャマを着る姉妹
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お揃いのパシャマを着て、実家で朝ご飯を食べているのを見ていると、連れてきて良かったなと思ったけれど、こうなるまでが大変。

オバ記者の母
退院したときの母ちゃん。このときはぐったりしていた
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私は、叔母も入会している『大人の休日倶楽部 ジパング』を利用すると、乗車券と特急が3割引きだから、新幹線でいっしょに行こうよと提案。ところがそれですんなり頷く性分ではない。

「いや、いい。ひとりで行く」と言ってきかないから、「じゃ、そうすれば」とあきらめたら、今度は「やっぱり一緒に行こうかしら」。そこまで電話で何度やり取りしたか。

で、当日。叔母は「東北新幹線は新宿を通らない? ウソよ!」と、独自の見解を示しだしたの。それをなだめ透かして待ち合わせた中野駅から中央線に乗り込み、電車は御茶ノ水駅へ。すると、「ここ、大きなお屋敷だったところよね」とホームから見える長い塀を指差したの。

ちょっとしたことで言い争いが何度も

「あそこは湯島聖堂よ」と静かに返す私。「ウソよ。なんでこんなところにあるのっ!」と叔母は頑張る。

「叔母ちゃんがどんなに言い張っても、地図は変えられないのよ。もし不服なら後で御茶ノ水の地図を見せるよ」とまで言うと、さすがに「あらそう」と引っ込めたけど、茨城の家にたどり着くまで、このたぐいの激しい思い込みによるスペシャルトークが何度も。

それでその夜、「こっち(茨城)から行くと宮城の先が郡山で、郡山から分かれた先が仙台でしょ」と、私の頭の地図をぐちゃぐちゃにするようなことを言い出した叔母に聞いたわよ。

「ねぇ、私は叔母ちゃんの話をどこまで真に受けたらいい?」と。そうしたら「どこまでってどういうことっ! 人の話はちゃんと聞きなさいっ!」だって。その後、小さな声で「私は人から聞いた話をうろ覚えで話しているだけよ」と言うから、自分の間違いに気づいたのかもね。

叔母はものすごい勢いで「違うわよ!」「ウソよ!」と言うわりに確信はない。昔からそうだ。

東京を満喫!骨董通りのレストランへ

そんなわけだから、スペシャル親孝行イベントが成功だったかどうか微妙だけど、私の疲労はマックス。覚悟していたとはいえ、想像以上のダメージで、気分はキョロキョロと目だけ動かして喧嘩のタネを探している思春期の青少年のよう。危なっかしいったらありゃしない。

青山の骨董通りのレストランでランチ
青山の骨董通りのレストランでランチ
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で、叔母が帰った2日後、再び水戸線に乗って花の都、東京へ向かったわよ。途中、名古屋から上京していたYちゃんと合流してJR原宿駅の竹下口へ。キラキラの竹下通りを歩いて、予約しておいた骨董通りのレストランでランチ。

竹下通り
竹下通りはこの賑わい
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夜は露天風呂付きの「銀座 露天の湯 日和ホテル」にYちゃんと宿泊。ここまでして、やっとツジツマが合わない叔母との会話が頭から抜けた気がした。ああ、やっぱり東京はいいよ。息が楽だもの。

ちなみに叔母はなんの行政サービスも受けず、2匹の猫と暮らしているから認知症というわけではない、と思う。新宿から東北新幹線が出ていると思っていたって、日々の暮らしには何の影響もないもんね。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
オバ記者ことライターの野原広子
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。今年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

●【274】「ここから永遠に逃れられないのか…」介護ストレスの日々

●【273】92歳母ちゃんに生涯一の怒声をあげてしまった…3か月の介護で疲れも?

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