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岡田将生主演『聖地X』はホラーを超えた!? “恐ろしいだけじゃない”エンタメ傑作

「聖地 X」の劇中写真
岡田将生が主演している『聖地X』。(C)2021「聖地 X」製作委員会
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11月19日より公開中の岡田将生(32歳)主演の映画『聖地X』。劇団・イキウメの傑作を映画化した本作は、「ホラー映画」と謳われているように非常にサスペンスフルな作品となっています。しかし、恐ろしさもある一方で、“想いの強さ”が巻き起こす怪異を描いたエンターテインメント作品でもあるのが最大の特徴です。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

より恐怖心を掻き立てる映画化ならではの改変

本作は、劇作家で演出家の前川知大(47歳)率いる劇団・イキウメが2015年に上演した代表作の1つを、映画『22年目の告白 -私が殺人犯です-』や『AI崩壊』などを手掛けた入江悠監督(42歳)が映画化したもの。韓国のとある呪われた土地で次々に起こる奇怪な現象と、それに翻弄される人々の姿を描き出しています。劇場公開と同時に、動画配信サービス「auスマートパスプレミアム」と「TELASA」での配信もスタートしました。

「聖地 X」の劇中写真
(C)2021「聖地 X」製作委員会
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映画化にあたってホラーテイストに振り切る

物語のあらすじはこうです。父親が遺した別荘のある韓国に渡って、悠々自適な生活を送っている小説家志望の輝夫(岡田将生)。そんな彼の元へ、結婚生活に愛想をつかした妹の要(川口春奈)が、夫を東京に残しやって来ます。しかしある日、要は韓国の商店街で夫の滋(薬丸翔)の姿を見かけます。その彼の後を追う要は、巨大な木と井戸がすぐ側にある、不気味な佇まいの飲食店にたどり着くことに。そして、無人のはずの店の奥から姿を表したのは、パスポートも持たず、記憶も曖昧な状態の滋だったのです。

「聖地 X」の劇中写真
(C)2021「聖地 X」製作委員会
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映画化に際して本作は、非常に面白い改変が施されています。演劇版にもおぞましい瞬間はありましたが、「ホラー」というわけではありませんでした。イキウメ公式サイトの作品紹介には、“ドッペルゲンガーの出現から、土地の秘密に迫っていく、SF推理喜劇。”と記されています。「土地の秘密」に迫るという点はこの映画も同じですが、観客をより恐怖に陥れるため、映画はホラーテイストに振り切っているのです。

そこで、演劇版と大きく異なるのが、ロケーションが与える印象。物語の舞台は、日本から韓国へと変更されています。演劇は、美術や照明、音響によってそこがどんな場かを表現し、観客の想像力に働きかけます。しかし映画の場合は、視覚情報として“その場”を完全に伝えることができる。物語の舞台を変えることで、日本人の見慣れた光景が排され、異化効果として観客の恐怖心をより煽ることに成功していると思います。

恐ろしいだけじゃない、絶妙なユーモアを交えた俳優たちの掛け合い

見慣れぬロケーションを利用した演出も見事ですが、俳優陣の演技合戦が面白いのも本作のストロングポイント。小説家志望の主人公を演じる主演の岡田を筆頭に、妹の要役の川口春奈(26歳)、キーマンとなる要の夫・滋役に薬丸翔(31歳)、そのほか、緒形直人(54歳)、真木よう子(39歳)、渋川清彦(47歳)、山田真歩(40歳)といった演技巧者が勢揃い。さらに韓国の俳優陣も多数参戦し、ただ恐ろしいばかりでなく、絶妙なユーモアも交えた掛け合いを繰り広げ、物語を盛り上げています。

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(C)2021「聖地 X」製作委員会
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岡田将生は奇怪な現象に翻弄されるさまを好演

その中でも、主演として作品の先頭に立つ岡田将生は「さすが」の一言。今年の彼は、まさに“エンタメ界の顔”の1人だったのではないでしょうか。ドラマでは『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)でのひねくれ者の弁護士役で話題を集め、映画では『さんかく窓の外側は夜』、『Arc アーク』、『ドライブ・マイ・カー』、『CUBE 一度入ったら、最後』と出演作の公開が相次ぎました。夏には舞台『物語なき、この世界。』で主演を務め、現在も主演舞台『ガラスの動物園』の上演が始まったばかり。

「聖地 X」の劇中写真
(C)2021「聖地 X」製作委員会
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今作『聖地X』では“親の遺産で暮らす小説家志望の青年”というまたもクセのある人物に扮しながら、奇怪な現象に翻弄されていくさまをフレキシブルに演じ、観客のナビゲーター的な役割を担っています。

ヒロインに扮した川口春奈の演技も絶品です。要という人物は、甲斐性なしの夫の滋からひどい仕打ちを受け、怒って韓国へと渡りますが、追いかけてもこない滋に対してさらに腹を立てています。ネガティブな感情ではあるものの、このあたりのテンションを高く維持する演技に川口の力量を感じます。やがて不意に現れる、“どこかおかしな滋”に対する狼狽ぶりでもしっかりと魅せてくれています。

「聖地 X」の劇中写真
(C)2021「聖地 X」製作委員会
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薬丸翔もMVP級の演技を見せる

そして、救いようのない夫の滋を演じる薬丸翔は、この手練れのメンツが集まった座組の中でもMVPを贈りたいほどの好演を残しています。自ら働いた不貞を悪びれることなく薄ら笑いを浮かべる姿や、記憶が欠けているために要にすがる姿など、作品内での彼の存在は極めて不安定。この不安定さ(=変化)の表現が求められるのが滋という役どころであり、薬丸は期待以上に応えているのではないかと思います。

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幸福も不幸も呼び寄せる人の“想いの強さ”

本作は、演劇版で「SF推理喜劇」と謳っているように、ミステリー色の強い作品であるため、ネタバレせずに説明するのが非常に難しいところ。ただ言えるのは、ホラーテイストに仕上げていることで、それがさらにエンターテインメント性を増しているという点。演劇版でのウィットに富んだセリフの数々は映画版でも健在で、優れた俳優陣が大いに楽しませてくれることでしょう。

「聖地 X」の劇中写真
(C)2021「聖地 X」製作委員会
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そして、本作の “核”となるテーマにも注目です。あらすじの通り、本作は “誰もいないはずの場所に特定の誰かが現れる”、演劇版の言葉を借りるならば、 “ドッペルゲンガー”の物語。ドッペルゲンガーは登場人物たちのさまざまな、そして非常に強い「思念」を表しており、この「思念」=「想いの強さ」こそが次々と怪異を巻き起こすのです。

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演劇版とは異なるラストか

思念は、観客に恐怖を与えるだけのものではありません。想いの強さは、ときに人を幸福へと向かわせ、またときには不幸を呼び寄せてしまう。“好意”のようなポジティブなものであれ、“憎悪”のようなネガティブなものであれ同じだと思います。本作でこのテーマを体現しているのが要と滋の関係です。破綻していた夫婦関係が、互いの想いの強さによって最終的にどうなるのか。演劇版とは異なるラストが待っていることでしょう。

◆文筆家・折田侑駿さん

折田優駿さん
文筆家・折田優駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk

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