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【64歳オバ記者 介護のリアル】4か月介護を終えて“鉄旅”へ 「春まで」と施設に入れた93歳母ちゃんの顔が浮かんでは消える

青森の市場で、本マグロのスキミに「アンコール!」

が、青森へ2日続きでぶっ飛んでいくのは、それだけが理由じゃない。新青森駅前の赤いビル「アウガ」の地下の市場の映像が浮かんで、辛抱たまらんのですよ。ここの扉を開いた私はすでに人間ではありません。うまい魚を鼻で嗅ぎ分ける猫です。

「アウガ」の地下には市場がある
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まずはザザーッと主だった店を早歩きで見て回って、本日のスペシャルを見つけるの。東京のデパ地下で「チクショー、いつか買ってやる!」と何度、握り拳を作ったかわからない大間産の本マグロが手が届く値段で見つけることがあるけど、欲しいのはそっちじゃない。ここにしかない本マグロの骨についた身をスプーンで剥がしたスキミのほうなの。このうまさと言ったら、ああ、もう、ひと口で天国行きだね。しかも300円とか500円とか。

実はそれを前日、見つけて家に持ち帰って食べているのよ。写真に撮ることも忘れて無我夢中で食べてしまい、あまりの美味っぷりに「アンコール!」というわけ。

だけど東京発7時32分だと、青森着11時19分。午前5時オープンの鮮魚市場では本日の超目玉商品は売れきれている。

「これ、食べさせたら何ていうかな」…母の顔が

とはいえ、このむしゃぶりつきたいほど新鮮なまだらのアラ! 激安のほうぼう! ついさっきまで北の海を泳いでいたことが、魚体から見て取れるって、ああ、眼福、眼福。

新鮮な魚が並んでいる
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と、はしゃいだら、もう、信じられない。どうしたことか「これ、食べさせたら何ていうかな」とふいに母親の顔が浮かんだのよ。

種類豊富なのは青森の市場だから
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この時だけじゃない。実は旅の間中、何の脈略もなく、「あはは」とバカ笑いの顔とか、夜中に天井を見上げている深刻な顔が、浮かんでは消え、消えては浮かびなの。

田舎の同級生のK子ちゃんが言っていたっけ。「このまま父親と同居していたら、家庭内殺人事件が起きると思って施設に入ってもらったけど、1日だって頭の中から消えたことはないよね。ずっと重くのしかかっている」と。

「親子だから、かわいそうな思いをさせたくないって気持ちは当然あるけれど、その気持ちにどんどんのしかかってこられると、顔も見たくなくなるよ」とも。

舅、姑の介護は「嫁の役割」というけれど、しなくても「仕方ない」と割り切れると思う。実の親はそれができない。親子の情を担保に取られて、親から強請られているような気になるから苦しいのかな。

帰りのはやぶさ号の車窓に映る64歳の自分の顔を見て、そんなことを思った。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
オバ記者ことライターの野原広子
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。今年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

●【278】93歳母ちゃんとの4か月で感じた「介護は覚悟して始めても、さらに上の覚悟が求められる」

●【277】93歳母ちゃんと怒鳴り合いの大げんか「男と逃げたと!」「言ってねえべな!」

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