エンタメ・韓流

“イイ女”感が漂う「マリア」、“不在”の色男「ジョニー」など「歌謡曲に出てくる名前」が生み出す効果

ふらりと姿を消しドラマを生む「ジョニー」

いけない、少し気持ちが高ぶってしてしまった。名前の話である。

「ジェニー」と1文字違いの「ジョニー(ジョニィ)」は、色男の名前として活用される。歌の世界において、この名の男はとにかくジッとしていない。アイ・ジョージの『硝子のジョニー』、アリスの『ジョニーの子守歌』、ペドロ&カプリシャス『ジョニィへの伝言』……。どの曲も人のウワサ話には頻繁に上がるが姿はナシ。この3曲に出てくるジョニーは同一人物ではないかと思ってしまうほどである。

『ジョニィへの伝言』など、主人公はジョニィを2時間も待った末、しびれを切らして旅立ってしまっている。2時間! 20分ではなく2時間!! 要はそんなに待てるほど魅力的な人ということなのだろうが、そりゃ「2時間待ってた」と言い残したくもなるだろう。

とはいえ、伝言を頼まれた友人のプレッシャーを考えると胸が痛い。しかもこういうケースに限って、主人公が旅立った10分後ぐらいにジョニィが店に来たりするのである。クーッ! ジョニィ、無意識とはいえ、罪な男だ!

このほかにも、湘南が似合うチャコ、コッソリ惚れられるゆうこ、女神のように憧れられるジュリア、西城秀樹に猛烈に愛されるローラ、騙し上手なヒロシなど、歌の世界ではキャラが濃いボーイズ&ガールズが右往左往してとても愛おしい。

『傷らだけのローラ』は西城秀樹10枚目のシングルだった(写真は1978年、Ph/SHOGAKUKAN)
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個人情報の取り扱いやコンプライアンスなどいろいろと厳しくなってきた昨今、イメージを左右するので、名前を使った歌は作りにくい。架空の人物の名前が出てくる曲は、平成に入ってからグッと減った。モーニング娘。の38枚目のシングル『泣いちゃうかも』(2009年)で「マリコ」が登場したときは、なんだか旧友と再会した気分になった。

世界で一つのビューティフルネーム

名づけの傾向も時代と共に大きく変わっている。私たちの時代は女の子は「子」、男の子は「男」がつく名前が圧倒的に多かったけれど、2021年の名前ランキングを見ると、男の子が1位:蓮、2位:陽翔、3位:蒼。女の子が1位:紬、2位:陽葵、3位:凛!(参考:明治安田生命HPより)。オシャレだ!

名前や呼び名は言わずもがな、短いなかにたくさんの思いが込められている。2020年頃「あだ名禁止」が話題にもなったけれど、ステキなあだ名もたくさんあるはず。

ゴダイゴの『ビューティフルネーム』という曲では、名前を「燃える命」と歌っている。

たくさんの人と出会い、新しい名前を知るこの季節。かわいかったり、カッコよかったり、エレガントだったり、ステキな響きが桜吹雪とともに舞う!

今ではハンドルネームで交流することも多いけれど、それももちろん大切な名前。私は、昨年末の紅白で観た「まふまふ」さんが衝撃だった。そのふわふわな名前と、雪のように儚く白い存在感のミックスが絶妙で、聴きながら脳内でファンタジーの嵐が吹いた。

歌は3分間のドラマというが、名前は3秒間のドラマなのかもしれない。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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