エンタメ・韓流

『悪女(わる)』『やんごとなき一族』へと連なる?「ナレーション萌え」ドラマ40年の系譜

ナレーションもおおげさだった大映ドラマ

ナレーションを語るなら、80年代の大映ドラマシリーズを避けては通れないだろう。こじらせヒロインの熱い戦いを描き、世の中に興奮と困惑の渦を巻き起こした名作は数知れず。総合パンチ力なら『不良少女とよばれて』が頭ひとつ抜けるが、ナレーションでは、来宮良子さんのミステリアスボイスで幕を開ける『ヤヌスの鏡』を推す!

「もし、あなたにもう一つ顔があったら……」というゾッとするような視聴者への問いかけから、「誰でも天使の〜ように〜♪」と主題歌『今夜はANGEL』に入る流れは、ドラマ史上に残る、語りと歌のバトンリレーといっていいだろう。もう40年近く前のドラマだが、今でも来宮さんの声は余裕で脳内再生可能だ。

ドラマの基本設定を国家機密レベルの深刻さで説明してくれるオープニングナレーション。平成初期くらいから、減っていったイメージがあるが、嬉しいことに近年また増えている。

あくまで個人的分析で恐縮なのだが、2014年の『半沢直樹』の大ヒットはナレーション再ブームの一因になったのではなかろうか。「登場人物全員やたらテンション高いので私だけは冷静でいます」とでもいうような、フリーアナウンサー・山根基世さんのニュートラルな声! 半沢ワールドの緊張感をより高め、改めて「語り」の素晴らしさを確信した。

ドクターX
『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』のナレーションは田口トモロヲが務めた
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もちろん俳優の方が担当するナレーションも名作は多い。『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』の田口トモロヲさんはドラマをドキュメンタリーモードに押し上げるし、『七人の秘書』の岩下志麻さんは、声だけでもじゅうぶん姐さん的威厳が漲り感動した。

私がとても心に残っているのが、2012年に公開された、堤真一さんと岡村隆史さんダブル主演の映画『決算!忠臣蔵』。若く軽やかでキュートだけど、ちょっと低くて色っぽい……という不思議なバランスの女性の声がナレーションで、とても魅力的だった。

それが瑤泉院役の石原さとみさんの声だと知った瞬間、彼女への評価がポイント1億くらいに跳ね上がった。なんと良い声なのか! なんとうまいのか! と。

興奮のあまり、自分の好きなナレーションについて書き散らすだけ書き散らし、なんだかまとまりがなくなってしまった。しかしそれほどストーリーをナビゲートする「声」の存在は魅力的。映像でありながら、豪華な表紙と上質の紙を使ったハードカバーを手にしたような、心地よい重みが加わる、そんな気分になるのである。

これからも、ドラマをハードボイルドに彩ってくれるアツい口上、イカシたナレーションが生まれることを期待したい。7月から始まる夏ドラマも楽しみだ!

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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