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【65歳オバ記者 介護のリアル】思い出した祖父のこと 何気ない一言で家族で大笑いした出来事がいま慰めに 

「3人娘がいるのにだーれもかまってくんねー」

「オレは3人も娘がいるのにだーれもかまってくんねーんだ」と涙声になったのは今思えば認知症が始まっていたのかもね。鼻をすすりながら「胸が苦しいと言ってもだーれも胸、さすってくれねぇ。脚が痛てえと言っても、だーれもさすってくれねぇ」と、グダグタ言い出したら止まらない。

筋骨隆々のマッチョな姿を知っている孫の私は、あの爺さんでも老いたらここまで哀れになるのかと思うといたたまれなくなってね。それでつい口をついて出たのが、「おじさん、ほんと~にさすって欲しいのはどこで? 脚だの胸じゃあんめ?」。

この微妙な下ネタにどう反応するか。食卓を囲んでいたマスエさん一家と母ちゃんと父ちゃんが吹き出す直前に、なんとタツヤン、「オレはバカじゃねぇから、そうたことは言わねぇ」ってキッパリ言いながら笑ったのよ。それから箸がまあ、すすむこと、すすむこと。

男性が食事している写真
オバ記者の冗談で湿っぽかったタツヤンも笑顔になった(Ph/PhotoAC)
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だからどうだということではないし、介護ってそんなもんじゃない。冗談で笑わせたってそんなの一瞬だ。年寄りの元気なんか、季節の変わり目の天気予報みたいなもの。「雨のち晴れ、時々雷雨、豪雨注意」であてにならない。

わかっているんだけどね。あのときのタツヤンとマスエさん一家。「全くヒロコは何を言い出すんだか」と大笑いした母ちゃんと父ちゃんのそれぞれの顔を思い出すたびに私の慰めになるんだわ。

さて、起きて今日一日を始めるか。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
オバ記者ことライターの野原広子
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

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