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【65歳オバ記者 介護のリアル】母ちゃんには理解できなかった私のライター稼業、「マジメに働け」と言われたことも

亡くなった人を見送る“儀式”

それはともかく、母ちゃんが毎朝、新聞を開いたのは死亡欄に知り合いがいないかどうか調べるためなの。

ここで知った名前をみつけると「あれぇ~よ、〇子さん、亡くなったのか」と、目を見開いて心の底から驚いた顔をする。それを見るたび私は、「ああ、また始まったか」と内心、呆れるんだわ。私が茨城に住んだのは18歳までだけど、物心がついたときから母ちゃんには人が亡くなると、見送る儀式というか作法があって、それがいかにも芝居がかってるように私には見えたのよ。

オバ記者の母親
近所から誰かが死んだ知らせをうけたときの驚きようはまるで女優?
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亡くなった人の家族や親せきが家に訪ねてきて、これを“沙汰”と言ったんだけど、「〇〇が危ねぇんだとよ」とか、「○○さんがとうとう、なんだと」とか、切羽詰まった声で知らせるんだわ。

それを聞くと、「あれえ~よぉ。前から具合悪かったのげ。いぐら何でも急だっぺな」と母ちゃんはとにかく驚く。できるだけの演技力というか、ありったけの感情をこめて驚く。亡くなった○○さんの名前を母ちゃんから聞いたことがない。それで、「付き合いがあった人なのけ?」と聞くと、「会えばしゃべったっぺな」と、その程度だったりする。

これが集落の身近な人の死だと、母ちゃんの驚きっぷりもさらに激しくなって、「なんでだよ~。なんでそんな急になぁ~」を、知らせてくれた人が「次に行かなくちゃなんねぇ家があっから」と玄関から出ていくまで続くんだわ。

で、伝言をした人が帰ると、さっきまでの高い声とはまるで違う低い声で、「こうしちゃいられねぇど」と言って、仏壇の引き出しからお見舞いの封筒を出して、お札を入れる。そしてたった今、亡くなったばかりの人の家に急ぐ。その一連の行動を母ちゃんはとても生き生きしてしていたのよ。もっといえば楽し気だったの。

オバ記者の母親
葬儀の準備が始まるとどこか生き生きとしていた母ちゃん
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