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役所広司が“国民的俳優”と言われる所以 映画『ファミリア』で見せた静かに波打つ感情表現

経験豊富な俳優が集った一方で、本作は多くの新人が起用されています。物語の本筋に深く関わり、主演の役所さんとの掛け合いをたびたび繰り広げるマルコス役のサガエルカスさん、その恋人・エリカ役のワケドファジレさん、学の妻・ナディアを演じるアリまらい果さん、そしてマルコスの友人を演じたシマダアランさんにスミダグスタボさん。ここに並んだ誰もが本作で演技初挑戦。本作は演技派の手堅さと新人の瑞々しさによる見事なアンサンブルで成立しているのです。

映画『ファミリア』場面写真
(C)2022「ファミリア」製作委員会
写真12枚

そんな作品の中心に立っているのが、日本を代表する俳優・役所さんというわけです。

“国民的俳優”のキャリアを持つ役所広司

吉沢さんのことを“国民的俳優”だと先述しましたが、彼の大先輩である役所さんこそ“国民的俳優”であることに異を唱えるかたはいないでしょう。映画にドラマにと出演作の本数もさることながら、やはり何と言ってもそのバリエーションが豊か。作品のジャンルも演じる役のタイプも問わず、名匠と呼ばれる監督たちとともに数々の名作を世に送り出してきました。

映画『ファミリア』場面写真
(C)2022「ファミリア」製作委員会
写真12枚

戦国武将や軍人など歴史上の人物の役を務めることも多く、昨年は『峠 最後のサムライ』で河井継之助を演じていたのが記憶に新しいところです。歴史に名を残す人物の役として作品の看板を背負うのは、名実ともに一流の俳優でなければならないでしょう。こういったキャリアから、役所さんが“国民的俳優”だと断言できるゆえんが見えてくるというもの。ひるがえって、彼の息子役に吉沢さんが配されているのは必然のことといえそうです。

その静かに波打つような感情表現

そんな役所さんが本作で演じているのは、すでに記しているように陶器職人。限られた者しか持つことのできない肩書きであるため、特別といえば特別かもしれませんが、この誠治という人物はこれまで役所さんが演じてきたキャラクターの中でも平凡なものだといえるでしょう。

映画『ファミリア』場面写真
(C)2022「ファミリア」製作委員会
写真12枚

“物語の主役”は誠治なわけですが、この“作品の主役”はやはりテーマである「家族」そのものだと思います。誠治は本作で形成される「家族」の柱であり、さまざまな人と人との繋がりの、その“繋ぎ目”を役所さんは表現しています。物語への深い言及は避けますが、新たに生まれる“繋ぎ目”もあれば、失われてしまう“繋ぎ目”もある。その際に生じるのは、喜びや悲しみや怒りの感情です。役所さんはこれらを過度にドラマチックにさせることなく、静かに波打つように表出させているのです。

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