エンタメ・韓流

役所広司が“国民的俳優”と言われる所以 映画『ファミリア』で見せた静かに波打つ感情表現

私たちは「家族」になることもできる

在日ブラジル人であるマルコスらに対して、MIYAVIさん演じる半グレ集団のリーダーが執拗かつ残酷だと先述しました。そして、それには理由があるとも。彼はとある経験から、マルコスらのコミュニティに属する者たちを目の敵にしています。そこにあるのは、明らかな分断です。彼に対してマルコス本人が何かをしたわけではありません。彼はマルコスらの属性が許せないのです。

映画『ファミリア』場面写真
(C)2022「ファミリア」製作委員会
写真12枚

一方、誠治の息子である学は出自のまったく違うナディアを愛し、遠く故郷を離れたアルジェリアで働いています。そして彼は、笑顔を絶やすことがありません。まさに半グレ集団のリーダーとは対照的。学は身をもって、国籍や文化や境遇が違っても家族になれることを、手を取り合えることを知っています。彼の明るさや優しさは、そんなところからきているのでしょう。

写真12枚

私たちが生活する社会でも、どこかの誰かが属性の異なる誰かを貶めている現実があります。人種差別、職業差別、性差別……挙げはじめたらきりがない。人によっては何か特別な事情があって、他者との差異に向き合うのが難しい場合もあるのかもしれません。けれども、手を取り合うことができます。「家族」になることもできます。それが本作の訴えていること。私たちがつくる社会は以前よりもずっと、進化しているはずなのですから。

◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
写真12枚

1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

●大泉洋は「稀有なマルチプレイヤー」、主演映画『月の満ち欠け』で巧みに表現した「心のざわめき」

●重責を課された二宮和也、映画『ラーゲリより愛を込めて』で硬軟自在な演技者であることを証明

関連キーワード