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性的動画をネットに拡散された母親は養育権を獲得できるのか?『離婚弁護士シン・ソンハン』は有責配偶者を弁護する異色の韓国ドラマ

Netflixシリーズ「離婚弁護士シン・ソンハン」独占配信中
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Netflixオリジナルシリーズ「離婚弁護士シン・ソンハン」の主人公は、ピアニストから法律家に転身した離婚専門の弁護士。シン・ソンハンの依頼人は、夫に不倫がバレたり、姑に暴力を振るったなど、自ら離婚の原因をつくってしまった「有責配偶者」ばかりで、いつも勝ち目はなさそうに見える。しかし、シン・ソンハンが弁護していくなかで、表面には現れていなかった「被害」の実態が暴かれ、罪の主体が揺らいでいく。逆転劇の醍醐味を味わいながら、シン・ソンハンのつらい過去が見えてくるドラマももうすぐ最終話(4月9日第11話、10日最終話配信予定)。韓国のドラマや映画などに詳しいライター・むらたえりかさんが紹介します。(レビューはネタバレを含みます)

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「不倫をした側、暴力を振るった側」の声を聞く弁護士シン・ソンハン

2023年3月5日からNetflixで配信がスタートしたドラマ『離婚弁護士シン・ソンハン』。韓国では、JTBCの土日ドラマとして3月4日から放送されている。JTBC土日ドラマは、『調査官ク・ギョンイ』(2021年)や『私の解放日誌』(2022年)など、日本でも配信で人気のドラマを放送している枠だ。

主人公のシン・ソンハン弁護士(チョ・スンウ)は、ドイツで音楽学科教授を務め、ピアニストとして活動していた。しかし、家族にまつわるつらいできごとをきっかけに、30代半ばで弁護士を志し、見事に転身。「離婚専門」の弁護士事務所を立ち上げて、依頼者たちの離婚の手助けをしていく。

第1話の依頼者は、気象キャスター出身の人気ラジオDJ、イ・ソジン(ハン・ヘジン)だ。朝9時のラジオ番組を担当し、多くのリスナーに信頼されているソジン。しかし、不倫相手が彼女の性的な動画をインターネットに拡散したことで、仕事や名誉を失ってしまう。

動画が原因で夫のカン・ヒソプ(パク・ジョンピョ)に離婚を迫られたソジンは、シン・ソンハンの事務所を訪れる。息子のヒョヌ(チャン・ソンユル)の養育権を獲得するためだ。シン・ソンハンは有責配偶者(離婚の原因を作り、婚姻関係を破綻させた配偶者のこと)が養育権をとるのは難しいと考えたが、ソジンの夫に問題があると気づいて、一発逆転の訴訟に臨む。

ソジンの他にも、姑を叩いた妻、肝がんを患いながら不倫をしている夫、ベトナム人の妻に「暴力を振るわれた」と訴えられた夫など、難しい事情を抱えた依頼者たちがシン・ソンハンを頼りにしてやってくる。

https://drive.google.com/file/d/18mJcGk-ANQzMu-s6io4pUBjwP0kmdO9u/view?usp=share_link 元ピアニストのシン・ソンハン。酔ってストリートピアノを弾いていたときに、知らない動画配信者に勝手に動画を撮られてしまう。/Netflixシリーズ「離婚弁護士シン・ソンハン」独占配信中
元ピアニストのシン・ソンハン。酔ってストリートピアノを弾いていたときに、知らない動画配信者に勝手に動画を撮られてしまう。/Netflixシリーズ「離婚弁護士シン・ソンハン」独占配信中
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「不倫をした側、暴力を振るった側」の視点を扱っているのが面白い。問題のある配偶者として後ろ指をさされる依頼者たち。有責配偶者の弁護は負けるだけだと考えて、他の弁護士たちは相手にしてくれない。それでも、シン・ソンハンは問題のある配偶者たちの声に耳を傾ける。

シン・ソンハンは、なぜ彼らを助けようとするのか。その理由は、過去と関わりがあるのか。ひとつひとつの案件を解決しながら、シン・ソンハンが弁護士になった理由が明らかになっていく。

ワイングラスに焼酎を注いで

主人公のシン・ソンハンは42歳。いつも幼馴染みのチャン・ヒョングン(キム・ソンギュン)、チョ・ジョンシク(チョン・ムンソン)と3人で遊んでいる。おじさん3人が事あるごとにラーメンを食べに行ったり、休日にはキャンプをしに行ったりする様子が可愛らしい。少年時代から変わらなさそうな茶化し合いや悪態のやりとりに、笑ってしまう場面も多い。

主演のチョ・スンウは、ドラマ『秘密の森』(2017年)や『シーシュポス: The Myth』(2021年)に出演。韓国では実力派俳優として注目されている。『ジキル&ハイド』や『ラ・マンチャの男』など、多くのミュージカル作品にも精力的に出演を重ねている俳優だ。まだ日本で韓国映画の上映が少なかった2004年に、日本で公開された映画『ラブストーリー』のメインキャストでもある。

『ラブストーリー』は、ヴィヴァルディの『四季』やパッヘルベルの『カノン』などクラシック音楽が印象的に使われている映画だ。『離婚弁護士シン・ソンハン』でも、物語のカギに音楽が用いられている。シューベルトの『魔王』と、韓国における演歌・歌謡曲の「トロット」だ。

シン・ソンハンは、悲しいことを思い出したとき、それを忘れて気を紛らわせるためにトロットを聴く。劇中でトロットが流れると「シン・ソンハンが悲しいことを忘れたいのだ」とわかる。広い部屋にひとりで暮らし、夜にはワイングラスに焼酎を注いで、それを飲みながらトロットを歌って踊るシン・ソンハン。ちぐはぐな様子に、おかしさと哀愁を感じる。

対して、『魔王』が流れるのは、シン・ソンハンが怒りに満ちているとき。ピアノの音ひとつひとつが湧き上がってくる怒りを表しているようで、緊張が走る。音楽が盛り上がるにつれ、シン・ソンハンの感情がいまにも爆発してしまいそうに感じて、ハラハラする。