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実はいつも近くにあった坂本龍一さんの音楽 40年前のYMO「ベストテン」初ランクインと『めだかの兄妹』

1983年12月22日、YMOの武道館公演で演奏する坂本龍一さん(Ph/ANP/時事通信フォト)
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ミュージシャン・坂本龍一さん(享年71)の訃報から約1か月。1970年代後半から活動し、映画『ラストエンペラー』の音楽で米アカデミー賞を受賞するなど、50年近くも第一線で活躍し続けた彼の業績は、とても一言では語り尽くせません。惜しむ声が絶えないなか、ライター・田中稲さんが注目したのは、歌番組『ザ・ベストテン』に坂本さんのYMOが初ランクインした1983年5月5日の放送回。田中さんが、その「音楽の魅力」を独自の視点で綴ります。

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『君に、胸キュン。』3位で初ランクイン

遠い存在だと思っていた人が、実は近くにいた——。ふと気づいて驚くことがある。坂本龍一さんの音楽は、まさにそれだった。それはどういうことなのか説明する前に、せっかくなのでご一緒に、今から40年前にタイムスリップしてみようではないか。エイッ!

1983年5月5日。坂本龍一さん、細野晴臣さん、高橋幸宏さんによるユニットYMOの7thシングル『君に、胸キュン。』が、歌番組『ザ・ベストテン』に3位で初ランクインした日である。このランキングがかなり興味深いのだ。ダララララ(ランキングボードの回る音)! 10位まで記してみよう。

1位:1/2の神話(中森明菜)、2位:矢切の渡し(細川たかし)、3位:君に、胸キュン。(YMO)、4位:めだかの兄妹(わらべ)、5位:夏色のナンシー(早見優)、6位:め組のひと(ラッツ&スター)、7位:ボディ・スペシャルII(サザンオールスターズ)、8位:氷雨(佳山明生)、9位:Hey!ミスター・ポリスマン(石川秀美)、10位:ピエロ(田原俊彦)

なんとバラエティ豊かなのか。アイドルから演歌、歌謡曲にロックにテクノポップスにダンスミュージック、いやはやベストテンの素晴らしいところはこれだよ、これなんだよと言いたくなるような多彩さである。

特にベスト3。YMOとたかしと明菜ちゃんを続けて聴けるとは、なんと贅沢な……と今なら思うが、当時の私は、『君に、胸キュン。』の良さがわからなかった。さらに坂本龍一さんに関しては、1年前にリリースした忌野清志郎さんとの『い・け・な・いルージュマジック』の濃厚なパフォーマンスがインパクト大で、ド田舎の中学生にはただただカルチャーショック。これが尾を引き、遠い星から来た人を見る感覚であったのだ。

「遠い星から来た人を見る感覚」だったが…(写真は1980年、Ph/Getty Images)
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4位『めだかの兄妹』の編曲者だった

このランキング内で一番好きだったのは、4位に入ったわらべの『めだかの兄妹』である。バラエティ番組『欽ちゃんのどこまでやるの!』発の女性ユニットで、たどたどしい歌声が童謡的なメロディに乗り、ふんわりと心地よかった。誰でも歌えて、笑顔になる! イントロのキュルリンと鳴るカスタネット、サビのシャンシャンシャン、という音が春のせせらぎのようで、すっかりハマってしまった。

なんと、この曲の編曲者が坂本龍一さんだったのである。5月5日の初ランクインより前、「スポットライト」というコーナーでYMOが出演した際、黒柳徹子さんが坂本さんについて「『めだかの兄妹』のアレンジもなさっている」、と紹介。「あの可愛い曲をこの人が!?」と本当にビックリした。とはいえ、当時私はまだ「アレンジ」という仕事が何かわからない状態。結局坂本さんのイメージは『めだかの兄妹』と『君に、胸キュン。』に関わる、すごいルージュマジックの人……と、完全に困惑状態であった。ご本人も『めだかの兄妹』については、「どうしてこの仕事が自分に来たのか」と不思議だったらしい。

晩年は病との戦いの日々だった(写真は2016年、Ph/SHOGAKUKAN)
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