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樹木医・後藤瑞穂さん、起業で感じた女性経営者としての「壁」と今後の展望「樹木医としてのビジネスモデルを確立したい」

後藤瑞穂さん
「樹木医のロールモデルを目指す」と話す後藤瑞穂さんにインタビュー
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後藤瑞穂さん(55歳)は女性としては少ない樹木医として活躍。その活動がテレビ番組に取り上げられるなど注目度も高まっている。起業した際には、さまざまな「壁」に直面した。シングルマザーの女性経営者としてしたたかに、そしてしなやかに生き抜いてきたエピソードを聞いた。

女性経営者としてしなやかに事業を拡大

瑞穂さんは2001年に熊本県初の女性樹木医となり、父親の造園会社を継いだのち、東京に進出して個人事務所「木風KOFU」を立ち上げた。

「母子で上京したため、初めは息子と2人で生きていくのに精いっぱいでした。徐々に事業が軌道に乗り、従業員も増えてきて、2014年に法人化しました。その際には、知人が使っていなかった会社を安く譲ってもらったんです。そうすると、社歴が長いので信用もあるし、資本金も多い。

なんでも0から自分でしなきゃ、というこだわりは私にはなくて、使えるものはありがたく使わせていただく。むしろ、そうしてこなければ、いま私はここまで来られなかったと思います」

後藤瑞穂さん
後藤さんの個人事務所「木風KOFU」。従業員も増えて2014年法人化に
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話を聞いてもらえないことも

いまでこそ増えてきたが、当時は女性の経営者はまだ少なかった。

「女性だからと見下されることはよくありました。話すら聞いてくれない職人さんもいました。それに、樹木医は重い荷物を担いで山を歩くことも、高所作業もあったりします。男性よりも筋力や体力が劣っている女性は厳しい職業なのですが、ならば自分が司令塔になって、仕事をコントロールすればいいと考えました」

不利な状況から柔軟に仕事を最適化することは、子育てにも生かされていた。

「シングルマザーとして働きながら子育てするのは大変でしたが、できるだけ在宅ワークにして、子供が帰ってくる時間には家にいるようにしました。出張する場合は自治体のファミリー・サポートを受けたり、ママ友に子供を預けたりしました。女性1人でできることは限られているし、働いていると時間もないから、いろんな人の手やサービスをお借りして乗り越えました」

後藤瑞穂さん
仕事も子育ても使えるものはありがたく使わせてもらった
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職種を問わず、女性が希望する職業に就ける社会に

しなやかさも武器に、荒波を超えて事業を拡大してきた。近年、女性起業家が増えたのは、雇用されるよりも時間の融通が利くからでは、と後藤さんは分析する。

「私の例にもあるように、働き方を自分でマネジメントすることで、仕事と子育ての両立がしやすくなります。そのことに女性たちは気づかれたのではないでしょうか。弊社は完全テレワークなので、子育て中の女性もたくさんいますよ」

10年かけて土壌改良資材を開発

瑞穂さんの会社は樹木を診断するだけでなく、土壌改良資材の「ブレスパイプ」を開発、販売している。

「筒状に地面をくり抜いて、肥料などが充填された竹を編んだ筒を埋めることで、固くなった土に空気と水と栄養分が行き渡りやすくなって、樹木を元気にする商品です。古くから地面をくり抜いて竹を割った筒を埋める手法はあったのですが、それを応用して商品化と販路開拓に10年かかりました。一般の方にも扱いやすいように作られていて、弱っている木や水はけが悪い土地などに使用されています」

後藤瑞穂さん
「職業で女性が足切りされない社会になって欲しい」と話す後藤さん
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女性の樹木医や起業家が少ないと耳にするも、問題はそこではないと瑞穂さんは指摘する。

「どの分野の女性進出が少ないというよりも、もっと自由に、女性がなりたい職業に就けることが大切だと思うんです。例えばパイロットや寿司職人は、女性は非常に少ないですよね。大学の医学部入試の女性差別も問題になりました。職業で女性が足切りされない社会になってもらいたい。いろんな特性のあるかたが所属するコミュニティーの方が強いと思うんです」

樹木医としてロールモデルになりたい

後藤さんは、年齢を問わず好きな仕事を目指すことにエールを送る。

「人生100年時代で長く生きていかなければいけない。ならば元気にきれいでいるために、使命があった方がいいと思うんです。これが私の人生だ! というものが見つかると、すごくエネルギーがわいてくるんです。それは自分のためだけじゃなくて、家族のためにも、社会のためにもなります。

私の周りでも、70代の事業家の先輩がハイヒールをはいて歩いているんです。仕事をしてる人って若々しいし元気だし、素敵ですよね。50代から起業するのだって、いまの時代は遅くはない。やりたいと思っているなら挑戦したほうがいいです。

後藤瑞穂さん
樹木医だけでも生計を立てられる。自分がそのロールモデルになりたい
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“起業に向いている人”というのは特にありません。会社設立時にもらえる自治体の補助金や助成金もある。自治体が援助をしていますし、最初は個人事業からスタートして、少しずつ収益を上げていけばいい」

樹木医は全国で3000人弱しかおらず、メジャーな職業とはいえない。そこで瑞穂さんには展望がある。

「樹木医業だけで生計を立てている人はほとんどいないんです。だから積極的に樹木医を目指す人が多くないのかもしれません。だから私が樹木医としてのビジネスモデルを確立して、成り立っていますというロールモデルになりたいと考えています」

◆樹木医・後藤瑞穂さん

後藤瑞穂さん
樹木医・後藤瑞穂さん
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1968年生まれ。東京都出身、熊本県育ち。短期大学卒業後に造園設計に携わり、2001年熊本県初の女性樹木医に。最新樹木診断機器ピカスを日本で最初に導入。2007年「木風KOFU」設立。セミナーや講演のほか、テレビ番組『情熱大陸』(TBS系)出演など幅広い分野で活躍中。著書に『樹を診る女のつぶやき』(熊日出版)などがある。2021年、放送大学 教養学部 自然と環境コース卒業。https://kofu-japan.net/ceo/

撮影/浅野剛 取材・文/小山内麗香

●「樹木医」として注目集める後藤瑞穂さん、なぜ“木を診る”仕事を選んだのか? 目標達成までの苦労と息子と2人で食べていけるまで

●グラビアやTVで活躍したフリーアナ・別府彩さん、芸能界引退後の挫折と「タレントキャリアアドバイザー」の今

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