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佐藤健主演の新作映画、震災扱う作品の中で「これほど胸に響くものない」と評される理由

10月1日より公開中の佐藤健(32才)主演の映画『護られなかった者たちへ』。東日本大震災から10年目の宮城県内都市部で起きた連続殺人事件をきっかけに、現代社会の根深い問題と対峙する人々の姿が描かれています。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
写真10枚

佐藤健や阿部寛(57才)など、豪華キャストの出演でも注目を集める本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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コロナ禍の今と重なる人々が身を寄せ合う姿

本作は、作家・中山七里(59才)による同名ミステリー小説を映画化したもの。メガホンを取ったのは、映画『糸』や『明日の食卓』などを手掛けた瀬々敬久監督(61才)です。瀬々監督が主演の佐藤とタッグを組むのは、2017年に公開され大ヒットを記録した『8年越しの花嫁 奇跡の実話』に続いて2度目。

同作に続き今作も、両者にとって代表作の一つに数えて間違いないものとなっています。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
写真10枚

震災から10年目の仙台で不可解な殺人事件が発生

舞台は東日本大震災から10年目の仙台。この土地で、被害者が全身を縛られたまま“餓死させられる”という不可解な殺人事件が発生します。捜査線上に容疑者として浮かんだのは、別の事件で服役し出所してきたばかりの利根泰久(佐藤健)という一人の男。

事件を追う刑事の笘篠誠一郎(阿部寛)は、被害者が“同じ福祉保険事務所で働いていた”という共通点を見つけ出し、それを手がかりに利根に迫ります。なぜ無惨で不可解な事件が起きてしまったのか、利根の過去に何があったのか、事件の裏に隠された真実が明らかになっていきます。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
写真10枚

私たちが今直面するコロナ禍を反映しているよう

実際に、東日本大震災から早くも10年の時が経ちました。舞台が宮城・仙台となっているので、登場人物のほとんどが震災の経験者。物語は、震災直後と現在が交差する形で進行していきます。前者の場面では、家族を失った者、職を失った者、居場所を失った者…多くのものを失った人々が小さく身を寄せ合って、懸命に苦境を乗り越えていきます。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
写真10枚

そこで育まれるのは、赤の他人であったはずの者たち同士の愛情。互いが互いにとってかけがえのない存在となっていきます。

護ってくれる存在がいないのだから、互いに助け合う。これまでにも震災を扱った作品は数多く生み出されてきましたが、本作ほど胸に響いたものはありません。なぜなら現在の私たちが、まさにこの登場人物たちと重なるからです。疫禍によって誰もが苦しい思いをしているにも関わらず、護ってくれる存在は無いに等しい。

将来が心配なのは筆者だけではないはずです。作中の人々が助け合う姿は、私たちが今直面する現実を反映しているようでした。

佐藤健、阿部寛、清原果耶、倍賞美津子らによる胸打つ好演

本作を支えているのが、若手からベテランまで勢揃いの優れたプレイヤーたちです。主演の佐藤を筆頭に、事件を追う刑事役の阿部寛や、事件のカギとなる保健福祉センターで働く円山幹子役の清原果耶(19才)のほか、林遣都(30才)、永山瑛太(38才)、緒形直人(54才)、吉岡秀隆(51才)、倍賞美津子(74才)らが脇を固めています。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
写真10枚

それぞれが徹底した役作りと個性光る好演を見せており、この社会派映画を超一級のものに仕上げています。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
写真10枚

そんな彼らの演技合戦も本作の見どころの一つ。主演の佐藤は、映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』で圧巻の身体能力を披露したかと思えば、細田守監督(54才)による最新作『竜とそばかすの姫』では重要なキャラクターを声だけで表現しました。

今作でも、震災で何もかもを完全に失ってしまった孤独な青年が、他者の温かみに触れて変化する姿を細やかに演じ上げています。また、ドラマ『ドラゴン桜』第2シリーズ(TBS系)で型破りな教育者に扮した阿部が演じているのは、今回も型破りな刑事。相方役の林遣都が呆れるほど、独自の捜査法で真相に迫ります。

『おかえりモネ』とは違う清原果耶の演技に注目

NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』が間もなく佳境を迎える清原は、今作で福祉センターの職員に扮し、さまざまな地域住民との交流を演じています。助けを欲する者に優しく寄り添ったり、生活保護費を不正受給する者には厳しく詰め寄ったり、本作のタイトルにも繋がる非常に重要な存在です。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
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また偶然にも、本作と『おかえりモネ』は舞台が近しく、演じるキャラクターの年齢も近い。二作における清原の演技の違いを観るのも面白さの一つとなることでしょう。

そして、本作に登場する孤独な魂を温かく包むのが、倍賞の存在です。震災直後、佐藤演じる利根の心を解きほぐしていく演技は、やはり円熟味を感じさせます。両者の関係は、佐藤の受けの演技があってこそ成立するものですが、倍賞の朗らかな笑顔や優しく深く染み入る声は、孤独な青年が心を開くのに説得力を与えています。

サスペンスフルな物語が展開する本作ですが、それとは相反する“優しい時間”が流れているのも作品の一つの魅力です。

本作が現代社会に問いかけるもの

被害者が福祉保険事務所の人物であることからも分かる通り、本作の核になっているのが社会福祉の問題です。助かるはずだった人が、福祉に従事する側の対応によって助からないことがある。そもそも、生活保護を必要とするほど追い込まれている人々が多くいるという社会問題が大前提としてあります。本作は、そこに怒りと悲しみを持って肉薄しています。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
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現在のコロナ禍も“災害”と言われたりしていますが、災害の有無に関わらず、生活に困窮している人々が数多くいます。やむを得ず、“何か”や“誰か”に頼らなければならない人も大勢いるはずです。しかし、誰もが自分のことで精一杯で、なかなか他人の痛みや苦しみにまで気付いてあげられないのが現状なのではないでしょうか。

「護られなかった者たちへ」劇中シーン
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
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本作は、そんな現状にもっとよく目を凝らし、周囲の声に耳を傾けなければならないことを改めて問いかけます。また同時に、助けが必要な人はどうか声を上げて欲しい、そんなメッセージも込められているように感じました。本作は、いまこの時代を生きる全ての人に贈られるべき映画だと感じました。

◆文筆家・折田侑駿さん

折田優駿さん
文筆家・折田優駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk

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