エンタメ・韓流

Chara「甘い歌声」の恍惚…「言語化できず持て余していた気持ち」を浮かび上がらせ、時に包み込んでくれることも

『Swallowtail Butterfly』を一人カラオケで歌ってみたら…

「終わり」を感じるCharaさんの名曲にもう一曲、1996年、YEN TOWN BANDのボーカルとして参加し、大ヒットした『Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜』がある。が、これは別格。私には少々破壊力が強すぎた。この曲が劇中に登場する岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』の影響がかなり大きい。主役のCharaさん、三上博史さん、伊藤歩さんが日本語や英語、中国語を混ぜた言葉を話し、砂埃のなか、むせかえるような生命力と儚さを見せていた。

「刺激の強さと、とびきりのやさしさを併せ持つ」Charaの楽曲(写真は2006年、Ph/SHOGAKUKAN)
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あの無国籍感と、絶望と希望がないまぜになったような重いパワーは衝撃で、今もあの曲は、友人のカラオケですら、つらくなってしまう。ただ、ここまでヘビーな感情になるということは、それだけディープに、心に響いているということだろう。そう思って、一人カラオケでコッソリ歌ってみた。なにかあるごとにカラオケで歌い確認するのが私のクセである。

歌い終わった後、ものすごく壮大で孤独な気分になった。前世の記憶を思い出した、もしくは知らない国の国家機密を私だけ知ってしまったような——。目の前に置かれたドリンク飲み放題のヘケヘケにくたびれたカップが、ものすごく意味のあるものに思えるほどに!

妄想が無限に膨らむ、なんとも恐ろしい歌である。

Charaさんの甘い甘いかすれた響きは、問答無用で「自分の中で言語化できなかった気持ち」を浮かび上がらせてくる。それを持て余すこともあるけれど、逆に、持て余していた気持ちを包み込んでくれることもある。

刺激の強さと、とびきりのやさしさを併せ持った、不思議な砂糖菓子だ。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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