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クセの強い役を極める岡田将生、新作映画で演じた冷酷な殺人鬼役は「新しい一面」と言えるのか?

岡田将生の新しい一面……?

岡田さんといえば2000年代にデビューを果たして以降、絶えずエンターテインメント界のトップを走り続けている俳優だといえるでしょう。

ドラマだと、キャリア初期には『生徒諸君!』(2007年/テレビ朝日系)に出演していて、映画化までされることになった人気シリーズ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年/カンテレ・フジテレビ系)などに出演。

映画では『告白』(2010年)に『悪人』(2010年)、『銀魂』シリーズ(2017年~)、さらには『Arc アーク』(2021年)や『ドライブ・マイ・カー』(2021年)といった海外から注目される作品にも出演し、“話題作”と呼ばれるものには必ずといっていいほど岡田さんの存在がある気すらします。

そんな岡田さんに対して、みなさんはどのような印象をお持ちでしょうか。バツグンに演技が上手い俳優だという認識をお持ちのかたは多いことでしょう。これは基本的に個人の好みに拠るところが大きいものですが、演劇作品における彼の生の演技を目の当たりにすれば、誰もが「上手い!」と唸らずにはいられない。が、ここで言いたいのはそのことではありません。近年の彼の俳優としての傾向のことです。

本作ではサイコパス的な性質を持った殺人鬼を演じ、新しい一面をのぞかせているともいえるようです。しかし筆者としては、特別に新しい一面を披露しているわけではないと思うのです。

特異な役どころを極める

近年の岡田さんが演じるキャラクターの傾向として、誰も彼もが非常に個性的というか、ある種のクセの強さを持った者たちだということが挙げられます。『大豆田とわ子と三人の元夫』で演じたひねくれ者の弁護士役がそうですし、『ドライブ・マイ・カー』で演じた性格に難のある若手俳優役もそうでしょう。端的にいうならば、周囲の人々と比べたときにその個性が際立っているのです。

思い返せば、朝ドラ『なつぞら』(2019年/NHK総合)では空回りしては妹に迷惑をかける青年を演じていましたし、2021年公開の『CUBE 一度入ったら、最後』では精神的に脆く、パニックに陥ると行き過ぎた行動を取ってしまう若者を演じていました。作品のジャンルや役のタイプは大きく違うものの、いずれもクセの強いキャラクターたちでした。

映画『ゴールド・ボーイ』場面写真
(C)2024 GOLD BOY
写真9枚

今回の『ゴールド・ボーイ』で演じる東昇は、確固たる美学と哲学を持った特異な人物。ほとんど顔色を変えることなく、平然と殺人を犯します。個性の強さやクセの強さでいえば、これまでに岡田さんが演じてきたキャラクターたちの延長線上にあり、その最たるものだともいえます。

本作における岡田さんの演技はかなり抑制の効いたものです。感情的になることは少なく、そもそも感情というものがどこにあるのか分からない。それでいて周囲の登場人物たちに対しては好青年を演じているわけですから、つまりは劇中でも演じているわけです。これを成立させるためには、冷静かつ俯瞰的な視点が必要でしょう。作品の全体像の中に東昇というキャラクターをどのように置くのかが要。まだ経験の浅い若手俳優陣を立てることも、本作においては重要です。

『ゴールド・ボーイ』で岡田さんが手にしたのは、“新しい一面”ではなく、俳優としてのポジションの築き方なのではないかと思うのです。

東昇の存在からメッセージを読む

サスペンスである本作には、いくつもの大きな仕掛けが施されています。だから観客は先の展開を読むことができないし、最初から最後までスリルを味わうことができる。その仕掛けについて触れるのは控えておきましょう。

ただひとついえるのは、主人公の東昇と対峙する子どもたちに、観客の誰もが肩入れせずにはいられないだろうということ。殺人鬼を脅迫するくらいですから、少年少女もまた道を誤ります。ですが、東のバックグラウンドが描かれないのとは対照的に、少年少女らの場合は描かれます。そしてそれが、罪を犯す理由につながってくる。だからといって、子どもたちが罪を犯すのはしょうがないと述べたいわけではありません。

劇中では描かれない東のバックグラウンドがどのようなものであるのかを、鑑賞後に想像する人は、どれくらいいるでしょうか。

何か想像を絶するような事件が起こった際、当事者ではない人々の多くがそれを、“ニュース”として消費します。そこで非当事者の私たちにできるのは、想像することなのではないでしょうか。

本作は完全なるエンターテインメント作品ですが、じつはそういったメッセージも込められているように思うのです。

◆文筆家・折田侑駿さん

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
写真9枚

1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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