エンタメ・韓流

《映画『ミッシング』は勝負作》石原さとみの真価を知る…「極限状態を表現」で変わる演技者としてのイメージ

映画『ミッシング』場面写真
映画『ミッシング』は石原さとみの勝負作(C)2024「missing」Film Partners
写真8枚

石原さとみさん(37歳)が主演を務めた映画『ミッシング』が5月17日より公開中です。映画『ヒメアノ〜ル』(2016年)や『空白』(2021年)などの吉田恵輔監督による本作は、失踪した娘を懸命に探し続ける母親の姿を克明に描き出すもの。観るのに勇気がいるシリアスな内容ですが、目を逸らしてはならない現代社会が抱える問題が詰め込まれた、観る者の心を激しく揺さぶる作品に仕上がっている。本作の見どころや石原さんの演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説する。

* * *

石原さとみが人間描写の鬼・吉田恵輔と念願の初タッグ

本作は、森田剛さんが主演を務めた『ヒメアノ〜ル』や、古田新太さんが主演した『空白』など、次々と話題作を手がける吉田監督のオリジナル最新作。誰もが持つ“影”の部分にフォーカスし、“人間そのもの”に肉薄する吉田監督の手腕は、「人間描写の鬼」とも称されるほど。

行方不明になってしまった愛娘を探す母の姿を描く今作では、彼女の存在を中心にして、マスコミの報道のありかたや、SNSでの誹謗中傷など、現代社会が抱える闇をも照射しています。

映画『ミッシング』ポスタービジュアル
(C)2024「missing」Film Partners
写真8枚

そんな本作で主人公・沙織里を演じているのは、石原さとみさん。娘だけでなく、いつしか自身の心までも失ってしまう過酷な役どころを演じ、これまでの彼女のイメージを覆すパフォーマンスを披露しています。

すべてのはじまりは2017年。「どんな役でもいいから、吉田さんの映画に出たいです」と石原さんが監督に直談判したのだといいます。それから数年のときを経て、念願の初タッグが実現。2024年を代表することになるであろう映画が、ここに誕生したのです。

失踪した娘を探すうち、自身の心も失っていく母

娘の美羽が失踪して3か月――。母・沙織里は彼女を必死になって探し、その帰りを待ち続けるも、世間の関心が薄れていくことに焦りを感じる毎日。

同じく事件の当事者であるはずの夫の豊とは温度差があり、夫婦喧嘩が絶えません。唯一この事件の取材を続ける地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々でした。

そんなある日、娘の失踪時に沙織里がアイドルのライブに行っていたことが世間に知られることに。たちまちネット上では“育児放棄の母”として誹謗中傷の標的になってしまいます。

世の中に溢れ返る身勝手な正義心や好奇心に晒され続けた結果、沙織里の言動は過剰なものになっていきます。そして、メディアの求める“悲劇の母”を演じれば演じるほど、彼女は自身の心を失っていきます。

いっぽう、テレビ局は視聴率獲得のため、沙織里や、沙織里の弟・圭吾に世間の関心を煽るような取材をするように、砂田は上層部から指示されます。それでも沙織里は娘に会いたい一心で、この世の中にすがり続けるのです。

“吉田ワールド”を体現する俳優陣

吉田監督の作品というと、“人間そのもの”を見つめる作風もさることながら、キャスティングの妙にも唸らされるもの。石原さんが主演を務めていることもそうでしょう。本作にもユニークな顔ぶれが集い、俳優の一人ひとりが“吉田ワールド”を体現しているのです。

青木崇高さんが演じているのは沙織里の夫である豊。この夫婦には温度差があると先述しましたが、豊はいつだって真剣に家族のことを想っている人物です。ただ、置かれた状況からして感情的にならざるを得ない沙織里と比べて、彼はつねに冷静。青木さんが抑えた演技に徹することによりコントラストが生まれ、沙織里の暴走する孤独感を際立てているように思います。

映画『ミッシング』場面写真
(C)2024「missing」Film Partners
写真8枚

テレビ局の記者・砂田を演じているのは中村倫也さん。“悲劇の母”を大衆の好奇の目にさらす役割を押し付けられ、葛藤するさまを繊細に演じています。砂田の葛藤こそ、本作が問題提起しているテーマのひとつ。静かな演技で石原さんの力演を受け、そして支え、作品のクオリティを底上げしている印象です。

映画『ミッシング』場面写真
(C)2024「missing」Film Partners
写真8枚

さらに、世間から疑いの目を向けられる沙織里の弟・圭吾を森優作さんが、砂田の部下である新人記者を小野花梨さんが演じているほか、有田麗未さん、小松和重さん、細川岳さん、カトウシンスケさん、山本直寛さん、柳憂怜さん、美保純さんらが結集。それぞれのポジションから、観る者に問いを投げかけます。

映画『ミッシング』場面写真
(C)2024「missing」Film Partners
写真8枚

そして、このような面々を率い、俳優として新たな一面を見せているのが石原さとみさんなのです。

関連キーワード