エンタメ・韓流

韓国ドラマ、ヒットの条件はサブキャラ!『愛の不時着』の軍人4人組や恋愛モノで主役を食うサブカップルも

『愛の不時着』ピョ・チス役を演じたヤン・ギョンウォン
『愛の不時着』ピョ・チス役でブレイクしたヤン・ギョンウォン(Ph:Mydaily/AFLO)
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コロナ禍のステイホームの影響もあり、新規のファンを増やしている韓国ドラマ。ここ数年、ヒットする韓国ドラマには、主役並みに生き生きと魅力的に描かれるようになったサブキャラクターの存在があるといいます。韓国エンタメライター・田名部知子さんに、そんな韓国ドラマのサブキャラ事情を解説してもらいました。

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資金の余裕は演出の余裕に?

韓国の財閥令嬢がパラグライダー中の事故で北朝鮮に不時着し、助けてくれた北朝鮮のエリート将校と恋に落ちるという2020年の大ヒットドラマ『愛の不時着』。見目麗しいヒョンビンとソン・イエジンの共演や、練り込まれた脚本で、全世界に韓国ドラマのファンを広げました。

それだけでなく、ヒョンビン演じるリ・ジョンヒョクの部下である兵士4人組のおとぼけぶりや、社宅村の個性的な婦人たちは、ドラマを見た人なら、数々の名シーンや表情、それぞれの置かれた境遇や性格などまで、鮮明に思い出すことができると思います。

近年、Netflixの参入などによる世界的な韓国ドラマのブームを受けて、韓国ドラマ界に潤沢な資金が投入されています。資金の余裕は、時間の余裕にもつながるもの。それにより助演や、ラブコメディーの“二番手の男”のキャラクターが、より丁寧に鮮やかに描かれるようになり、それが作品の面白さや奥深さ、余韻につながり、いまやサブキャラクターの魅力がヒット作の必須条件になっています。

主役並みに丁寧に描かれる作品の増加

韓国ドラマはもともと、日本のドラマに比べて話数や1本の放送時間が長いため、登場人物の描き方もおのずと濃くなるもの。かつては、「あの伏線はどこいった?」「ここで死なせるんかーい!?」なんてことも多々あったけれど、今は、はりめぐらせた伏線はきちんと回収し、助演たちの恋の行方や人生模様をきっちり描き切る作品が増えています。

ソ・ジヘ、キム・ジョンヒョン
ソ・ジヘ、キム・ジョンヒョン(Ph/AFLO)
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『賢い医師生活』シリーズで、主演ドクターたちに勝るとも劣らない強烈な個性を発揮したレジデントやインターンたちの成長を温かく見守ったり、ソ・ジヘとキム・ジョンヒョンが演じた『愛の不時着』のサブカップルの悲恋に号泣したりした人もいるでしょう。助演たちの好演による余韻もまた、私たちの心に大きく残りました。

“トッケビ”“サイコ”にも登場!愛すべきサブキャラクターたち

では、最近の韓国ドラマでは、どんなサブキャラクターたちが注目を集めたのでしょうか。

●あまりの人気で今や主演クラスに格上げーー『スタート・アップ:夢の扉(以下、スタート・アップ)』ハンチーム長(役)/キム・ソンホ(俳優名)

『スタート・アップ』でハンチーム長を演じたキム・ソンホは、主演カップル2人(ペ・スジ、ナム・ジュヒョク)を食うほどの人気で、「百想芸術大賞(韓国のゴールデングローブ賞と呼ばれている演劇賞)」の「TikTok人気賞」を受賞、韓国で「二番手シンドローム」を巻き起こしました。

キム・ソンホ
キム・ソンホ(Ph:Mydaily/AFLO)
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そして、現在Netflixで人気の『海街チャチャチャ』では、“二番手の男”から“一番手”=主演へと格上げされています。過去のトラウマを抱えながら懸命に明るく生きる「ホン班長」は町のみんなに頼りにされ愛され、視聴者からも愛されるキャラクターとなりました。いずれの作品とも放送終了後のSNS上では、“ハンチーム長ロス”、“ホン班長ロス”に泣く女性の嘆きがたくさん上がりました。

●主演カップルを食うほどの人気になることもーー『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』/死神/イ・ドンウク×サニー/ユ・インナ

サブカップルが大きく話題になることもあります。その筆頭といえば、『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』の死神(イ・ドンウク)とサニー(ユ・インナ)の2人です。圧倒的なビジュアルの2人が織りなすコミカルでキュートな演技と後半のシリアスな関係性に、笑って泣いて、主演カップル(コン・ユ×キム・ゴウン)に負けない人気ぶりでした。

ユ・インナ
イ・ドンウク、ユ・インナ(Ph:YONHAP NEWS/AFLO)
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このカップルはあまりの人気で、現在Netflixで連日「今日の総合TOP10」にランクインしている王道のラブコメディー『真心が届く~僕とスターのオフィス・ラブ!?~』で再共演しています。イ・ドンウクが仕事はできるけど恋愛オンチの弁護士役に、ユ・インナはスキャンダルで失墜した元人気女優役を演じ、ベタながら飽きさせない展開に、筆者もキュンキュン&ドキドキ、見ながらニヤニヤが止まりませんでした。

●遅咲きの演技派が今や韓国ドラマに欠かせない存在にーー『サイコだけど大丈夫』『椿の花咲く頃』/オ・ジョンセ

名バイプレイヤーが強烈な存在感を見せることも少なくありません。2000年に映画デビューし、2019年の『椿の花が咲く頃』でブレイクした遅咲きの名優・オ・ジョンセもまた、助演として数多くの作品を成功に導くヒットメーカーです。演じる役も人情派から悪役まで幅広く、ネチネチしたいやらしい役や、ナルシストなお調子者役などがピタリとハマリます。

オ・ジョンセ
オ・ジョンセ(Ph:Mydaily/AFLO)
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『椿の花が咲く頃』では、言うことは大きいのに器は小さい男ギュテを演じ、抜群の演技力で毎回視聴者をイラつかせつつ、それでいてどこか放っておけない存在感が光り、「百想芸術大賞」で助演男優賞を受賞、名実ともに名バイプレイヤーとなりました。

『サイコだけど大丈夫』ではキム・スヒョン演じるガンテの兄サンテ役で、自閉症スペクトラム障害を持つ難しい役どころを演じ、『椿の花が咲く頃』に続き2年連続、「百想芸術大賞」で助演男優賞を受賞しています。サンテの存在があまりに大きいのでてっきり主演だと思っていたら、助演男優賞を受賞したので「あぁ、助演だったのか」と思ったほどです。

オ・ジョンセ
『サイコだけど大丈夫』ではサンテ役を演じたオ・ジョンセ(Ph:Everett Collection/AFLO)
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●無名俳優を一気に人気者にーー『愛の不時着』ピョ・チス役/ヤン・ギョンウォン

まったく無名だったヤン・ギョンウォンを一気に人気俳優に押し上げたのが、『愛の不時着』です。おしゃべりなお調子者で、ヒロインのユン・セリ(ソン・イェジン)に嫌味ばかり言っていますが、実際は義理固く心優しいチスを生き生きと演じています。韓国語がわからなくても、彼が発する言葉の独特な北朝鮮なまりを楽しく聞けたのではないでしょうか。

ヤン・ギョンウォン
ヤン・ギョンウォン(Ph:Mydaily/AFLO)
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ラブストーリーには欠かせない!“二番手”のクオリティーアップ

特にラブストーリーには欠かせない存在の、“二番手の男”“二番手の女”のクオリティーもまた上がっています。演じる俳優の魅力もそうですが、「最後に殺さない」「ヒロインとの愛に破れたあと、安易に別の女性とくっつけない」といった丁寧な演出は、二番手ファンにはうれしいものです。

そして視聴者に、「私ならこっちの男を選ぶのに」と思わせたらその作品は勝ち。自分ならどっちの男性と付き合うか、どちらの立場に共感できるかといった論争で大いに盛り上がれるのも、韓国ドラマの楽しさです。

前述の『スタート・アップ』の「ドサン(ナム・ジュヒョク)派」「ジピョン(キム・ソンホ)派」や、『梨泰院クラス』のパク・セロイをめぐる2人のヒロイン「イソ(キム・ダミ)派」「スア(クォン・ナラ)派」など、韓ドラフリークたちと繰り広げる「私なら…」の議論は多くの韓国ドラマファンを楽しませてくれました。

ナム・ジュヒョク
ナム・ジュヒョク(Ph:YONHAP NEWS/AFLO)
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キム・ソンホ
キム・ソンホ(Ph/AFLO)
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キム・ダミ
キム・ダミ(Ph:Mydaily/AFLO)
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クォン・ナラ
クォン・ナラ(Ph:Mydaily/AFLO)
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最近の韓国ドラマは特に、「この俳優がサブキャラクターで出ているなら絶対おもしろい!」という助演に対する信頼感が、日本のドラマ以上にあります。主演俳優つながりで視聴作を探していくかたは多いと思いますが、助演俳優の信頼感で作品を選ぶことも韓国ドラマの選び方としてぜひおすすめしたいです。

◆教えてくれたのは:韓国エンタメライター・田名部知子さん

田名部知子
韓国エンタメライター・田名部知子さん
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『冬のソナタ』の時代から16年、K-POP、韓国ドラマを追いかけるアラフィフ・オタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2018年に韓国の名門・梨花女子大学に短期語学留学し、人生2度目の女子大生を経験。twitter.com/t7joshi