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『風のエオリア』で完全に恋に落ちた…徳永英明の「歌いながら泣いているような」歌声が持つ不思議な響き

『最後の言い訳』『壊れかけのRadio』は“熟成楽曲”

彼の名が全国に広まったのは翌年7月に発売された4thシングル『輝きながら…』である。私も富士フイルム「フジカラー」のCMで流れたこの曲を聴き、「透き通るような高い声だなあ」と驚いた。続けて、1988年、エアコン「Eolia」のCMで流れていた『風のエオリア』で完全に恋に落ちた、というわけである。

CDを買い何度も聴き、心の中でエオリアという女性になりすまし、徳永さんから「君は妖精さ」と囁かれる妄想に浸った。当時私が社会人で金持ちだったら、エアコンも数台買って部屋を冷え冷えにしていたことだろう。危なかった……。

CMタイアップ曲でもヒットが多かった(写真は2007年、Ph/SHOGAKUKAN)
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その後の彼のヒット連発は言わずもがなだが、やはり特筆すべきは『最後の言い訳』(1988年)と『壊れかけのRadio』(1990年)。この2曲は時を重ねるほど魅力と感動が増してくる。ノスタルジィが乳酸菌的な役割を果たし、ふつふつと味わい深くなっていくのである。熟成楽曲と呼ぶべきか。

おかげで、発売から約35年経った今も、カラオケに行けば誰かが必ず入れる。『壊れかけのRadio』など、バラードなのにサビが大合唱になる率も高い。そして、歌う彼らの目は、少年から大人に変わる思春期を思い出しているのがありありと分かるほど、遠くを見つめ、細くなっている。

彼の歌は決して、前向きな言葉が多く散りばめられているわけではないのだ。でも、だからこそ多くの人に愛されるのかも。挫折や苦い経験、切ない思い出に、青や緑の光を添えて美しく変えてくれる感じ。アルバム『BIRDS』(1986年)と『Nostalgia』(1993年)は特に、抱きしめたくなる名曲が詰まっていてオススメだ。

加藤雅也と秋吉満ちる(Monday満ちる)をメインキャストに、徳永原案の映画『シンガポール スリング』が製作された(写真は1992年、Ph/SHOGAKUKAN)
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