東出昌大さん（35歳）と三浦貴大さん（37歳）がダブル主演を務めた映画『Winny』が、3月10日より公開中です。新鋭監督である松本優作さんが手がけた本作は、かつて日本で実際に起きた「Winny事件」の顛末を映画化したもの。画期的なファイル共有ソフトを開発したことで不当に逮捕された技術者と、その無罪を証明するために共闘した弁護士たちの姿を描き、さまざまな技術の発達したこの令和の時代を生きる私たちの背中を押す作品に仕上がっています。本作の見どころや東出さん、三浦さんらの演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
＊ ＊ ＊
新鋭監督が手がける骨太かつ繊細な社会派映画
本作は、昨年の夏に公開された映画『ぜんぶ、ボクのせい』で商業デビューを飾った松本優作監督の最新作。「Winny事件」の顛末を題材にしたオリジナル企画として挑み、骨太かつ繊細な社会派映画となっています。実在の事件を、それもIT関連のものを扱っていると聞いて、腰が引ける方がいるかもしれません。
けれども、“事件”のことも“技術開発”のことも分からなくて問題ありません。プログラマー・金子勇のチャーミングなキャラクターと弁護団のユニークなやり取り、そして、手に汗握る法廷劇と、そこから見えてくる日本社会の暗部――。これらが有機的に作用し合い、映画というエンターテインメントとしての化学反応を起こしています。
繰り返しますが、分からなくても問題ありません。当時の関係者の協力のもと完成したこの映画を通して、あの事件の裏側を知ることが何よりも大切だと思います。
なぜ「Winny」の開発者である金子勇は逮捕されたのか？
2002年、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発し、その試用版を「2ちゃんねる」に公開した開発者・金子勇（東出）。
「Winny」はユーザー同士が直接データのやり取りをできるシステムで、その革新的な利便性から瞬く間にシェアを伸ばしていきます。ですがその裏では、大量の映画やゲーム、音楽などのコンテンツが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出。やがて社会問題へと発展していくことになります。
違法コピーをした者たちが次々と逮捕されていく中、なぜか開発者である金子本人も著作権法違反幇助の容疑をかけられて2004年に逮捕されてしまいます。
この報を受けて、サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光（三浦）は急きょ金子の弁護を引き受けることに。裁判で警察の逮捕の不当性を訴えるべく弁護団を結成し、金子とともに共闘していくパートナー関係を築いていきます。
第一審では有罪判決が下されてしまいますが、やがて運命の糸が交差し、これは世界をも揺るがす“事件”へと発展していくのです――。
新鋭・松本優作監督のもとに配された強力な布陣
前作『ぜんぶ、ボクのせい』で、社会からはみ出してしまった孤独な人々の姿を見つめた松本監督。フィクションとしての映画の力を持つ一方、そこに収められていたのは紛れもない私たちの現実でした。その彼が、今度は実際に社会を揺るがした事件を映画で描いたわけです。
撮影当時まだ20代であった松本監督は、まさに“時代”にメスを入れる“次代”を担う才能。彼にこの一大プロジェクトが任された事実は日本映画界の希望であり、そのようなプロジェクトだからか、出番の多寡を問わず一流の俳優たちが顔を揃えています。
三浦さんが演じる壇を先頭に、「Winny弁護団」の面々として集まっているのが、皆川猿時さん、和田正人さん、木竜麻生さん、池田大さん、そして吹越満さん。この者たちが一丸となって、金子との軽妙なチーム戦を展開します。そのすべてがスリリングなものだというわけではありません。みんなで一緒に食事をしたり、他愛の無い談笑をしたり。国家権力の抑圧から解放された、当たり前の人間の営みをも体現しているのです。
そして、渡辺いっけいさんが金子を逮捕した刑事役として「Winny弁護団」との闘い繰り広げているほか、心根の優しい金子を想う姉の役に吉田羊さん、さらに吉岡秀隆さんが警察内部の“裏金作り”を告発し孤軍奮闘する警察官という非常に重要な役どころに配され、作品は多層的な表情を持った作品に。
そんな座組の中心で肩を組んで走っているのが、東出昌大さんと三浦貴大さんのコンビなのです。