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66歳オバ記者が振り返る在宅介護の日々 母親が「100万円がねぇ!」と大騒ぎ、その意外な顛末

温泉旅行にも“全財産を持ち歩き”

もうツッコミどころ満載だけど、それだけじゃないよ。母ちゃんも義父ちゃんも大の旅好き、温泉好きで、月に何度も家を空けていたの。さすがにそんなときは家に鍵をかけたけれど、貴重品は丸ごと持って出るんだよね。

ある時、義父ちゃんがどうしても行きたいといって私の案内で熱海から伊豆を旅したときのこと。日帰り温泉に入ったら脱衣所の母ちゃんの様子がおかしいのよ。裸になったのはいいけれど、布製のバックの持ち手をきりりと縛って、それを脱いだ服で隠しているんだわ。「風呂に誰かいるのか?」と浴室の引き戸を開けたりして落ち着かない。ははあん。布製バックの中に印鑑、通帳、キャッシュカード。それから茶封筒に入った一万円札が何十枚かが入っているんだなと見当がついたわよ。

現金が無くなるより母ちゃんがボケる方が怖い(写真は元気だった時の母ちゃんと義父)
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見当がついたというのは、私が聞いても“全財産持ち歩き”のことは絶対に口を割らないの。娘の私にも用心して、「そうたもん、持ってねえべな」と、これまで何回やり取りしたか。まあ、ギャンブル依存症で万札はすべて“タネ銭”にしか見えなかったことがある私は、自分で自分を信用していない。母ちゃんの用心は正しいと思うけれど、それにしても全財産を脱衣所に置いて温泉に入ってゆっくりできるわけないって。幸い、女風呂には誰も入ってこなかったけれど、母ちゃんはずっと入口から目を離さず、耳を澄ませていたもんね。

と、まあ、昭和ヒトケタ生まれの茨城の農家出身の母ちゃんがすることは、理解できないことが多かったけれど、冒頭のように「金がなくなった」と言い出したのは初めてだ。いよいよボケが始まったかと私が身構えると、母ちゃんは目を尖らせて、「ここをいじった人がいんだよな」と、ぐちゃぐちゃ収納の戸をトントンと叩くんだわ。ほ~ら、いよいよおいでなすったか? もの取られ妄想が始まったらボケの入り口だぞ、と私はそっちのほうが恐ろしい。

家族ぐるみでつきあいのある人にも疑いの目を…

「そういえばこの前、〇さんが来たんだよな」と、母ちゃんが具体的な名前まで出したら、もう私も黙っていられない。〇さん家族ぐるみで長いことつきあっている人で、天地がひっくり返ってもそんなことをする人じゃないもの。

オバ記者
あんなに仲が良かった人も疑いだした母ちゃんの発言は衝撃だった
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「わがった。母ちゃん。その袋は私が見つけてやるけど、その代わりだ」と、母ちゃんにグイと体をくっつけて、「約束してくれっか?」というと、初めて顔をほころばせて「なんだよ」と体を押し返してきたの。

「だがらな。その袋の中には45万円入ってんだっぺ? あと何があんだ? ん? 古銭と古いお札? わかった! じゃあ、こうすっぺ。もし私が見つけたら半分くれっか?」

何かあてがあったわけじゃないのよ。だけど母ちゃんが探したという場所とは別の、物が積みあがっているところを探し出したら、ものの数分よ。郵便局の封筒と古銭がごっちゃり入った茶封筒入りのくちしゃくちゃのレジ袋を見つけちゃった!

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