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『Dolls』とは“別の顔”! 西島秀俊が北野映画『首』で示した俳優としての現在地

西島秀俊、2度目の北野映画に

西島さんが北野映画に出演するのは、2002年公開の『Dolls』以来で2度目のこと。北野映画の多くにはバイオレンス描写やナンセンスなコメディ要素が見られるものですが、この『Dolls』はラブストーリーです。それも、非常にアート性の強いもの。

打って変わって今回の『首』は、暴力と笑いに満ちたエンターテインメント。西島さんの出演が発表された時点で、果たしてどんな役どころで、どのようなパフォーマンスを展開するのか気になっていました。それは多くの映画ファンが同じなのではないでしょうか。

いまでは地上波のテレビドラマで主演を務めて幅広い世代から支持される西島さんですが、『Dolls』の頃は立て続けに作家性の強い映画作品に出演し、“映画俳優”としての地位を築き上げていました。北野映画での暴れっぷりを楽しみにしていたのは筆者だけではないはずです。

映画『首』写真
(C)2023 KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd.
写真13枚

ところがいざフタを開けてみると、本作における明智光秀はなかなかに真っ当な人物。信長に忠義を誓うがゆえに、やがて歴史に残る“裏切り行為”に出ることになるのです。

本作はある種のカルト性を帯びた時代劇のため、相対的に西島さんの演技は正統派時代劇のもののようにも映るのです。

西島秀俊が「一本の軸」に

本作では信長をトップとし、壮大で陰惨な権力争いが繰り広げられます。信長はやることなすことが振り切れていて(イカれていて)、つねに半笑いを浮かべる秀吉なども腹の底が見えない。そんな中で光秀は、武将らしい毅然とした振る舞いで、場を取り仕切っています。

それはつまり、光秀を演じる西島さんがシーンを取り仕切っているとも言い換えられる。西島さんの浮かべる渋面はまさに戦国の世に翻弄される者らしいもので、発する声は重々しく、野太く、的確にほかの武将たちや私たち観客に届きます。

映画『首』場面写真
(C)2023 KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd.
写真13枚

信長役の加瀬さんが常人には考えられない言動を演技で示したとしても、西島さんはそれを正確に受け止め、ときには受け流し、次のシーンにつなげていく。

『アウトレイジ』シリーズは「全員悪人」というキャッチコピーがつけられていたとおり、登場人物の誰もが悪人でした。いっぽうの本作は「狂ってやがる。」と記されているとおり、誰も彼もその行動が常軌を逸しています。そんな作品だからこそ、一本の軸になるような存在がいなければならない。本作における西島さんのポジションはこれです。

映画『首』場面写真
(C)2023 KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd.
写真13枚

西島さんが立ち上げた光秀像も、これまでのイメージを覆すものに違いありません。けれども彼のある種の正統派時代劇的な演技が、作品にまとまりと、強度を与えているように思うのです。

『Dolls』から21年。ここに俳優・西島秀俊の現在地が刻まれているのではないでしょうか。

現代の価値観で過去を再解釈してみる

本作はまったく新しい解釈で、あの「本能寺の変」を描いています。それは私たちが学んできた歴史観とは圧倒的に異なるもののはずです。

けれども実際に、かつて教科書に記載されていた情報が、(いまのところの)真の史実とは遠いものだった……ということは多々あります。そこには新発見があったりもするのですが、単純に、時代が変われば過去の出来事の解釈も変わるものでしょう。

映画『首』メイン写真
(C)2023 KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd.
写真13枚

歴史修正ではなく、現代の価値観に合わせて過去を新解釈・再解釈してみるのも面白いのではないでしょうか。いまのこの時代も狂っています。昨日までの常識が通じず、何が起きてもおかしくない。

『首』は異色のエンターテインメント大作ですが、こんな気づきを与えてもくれます。これを入口に、既成の事実にばかり囚われない生き方をしたいものです。

◆文筆家・折田侑駿さん

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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