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華やぐクリスマスに“そうじゃない人たち”の切なさ歌う辛島美登里『サイレント・イヴ』 雪のように降る美しい“冬声”は健在

聴くと、空を見上げたくなる

『サイレント・イヴ』はまさに、クリスマスが恋人たちの一大イベントだったバブル期後半、1990年の楽曲である。

初めて聴いたとき、声を手のひらで受け止めたくなった。♪「まっ」「しろな」……「こな」……「ゆき」(真白な粉雪)♪と、言葉と声が、小さな粒を作り、ホロホロと発光しつつ降ってくるのだ。それは、美しいを通り越して、ちょっと涙が出てくるくらいの繊細さ。それがサビにいくにつれて、意志の強さに変わっていくのだ。

『サイレント・イヴ』は自身最大のヒット曲に(写真は1995年、Ph/SHOGAKUKAN)
写真6枚

この楽曲は、仙道敦子さんと吉田栄作さん主演のトレンディドラマ『クリスマス・イヴ』(TBS系、1990年)の主題歌だった。しかし辛島さんは、楽曲制作のオファーを受けたときからトレンディじゃない、切ない歌を書こうと思い、この『サイレント・イヴ』ができたという。

2012年に配信された『歌ネット』のインタビュー記事では、〈当時、まだバブルの時期で、女の人はティファニーのリングを買ってもらって、男の人はホテルを一生懸命予約してって、それが普通だった頃なんですけど、「それは違う…」ってずっと思ってたんです。「そういう人たちもいるかもしれないけど、そうじゃない人たちも、きっと沢山いるはず…」って思ってたんです〉(「大人の歌ネット スペシャルインタビュー第20回」よりhttps://www.uta-net.com/user/otona/otona_interview/1210karashima1.html)と語っている。

私も、当時のクリスマスの記憶がないので、彼女の語る「そうじゃない人たち」側だったはず。でも、この曲がひたすら心に残っているのは、共感だけではない。とてもロンリーで切ない曲のだが、聴いたあと、不思議なサッパリ、シャッキリ感があったからだ。ひとりで泣いて、そこから前を向ける清々しさ。これになんとも憧れた。

もうリリースから33年も経ったけれど、今もこの曲は私の心の奥にしっかりあって、出番待ちをしている。そしてイルミネーションやクリスマスデコレーションで飾られる時期になると、♪「まっ」…「しろな」…「こな」…「ゆき」……と、彼女の歌声がそのまま解凍され、聴こえてくる。まさに辛島美登里さんは、私の“冬声”なのだ。

どんな暖冬でも、『サイレント・イヴ』を聴くと、襟元をつまんで首元の風を封じ、「ああ、雪の季節だね」と空を見上げたくなるのである。

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