趣味・カルチャー

“アフロ記者”稲垣えみ子さん、53歳で始めたピアノが「効率主義とは関係のない世界に豊かなものがあると気づかせてくれた」

つらければやめていい。自分で選んでやるからこそ楽しい

体も頭も若いころのようには動かない。思うように曲が弾けるようになるまで時間もかかる。しかし稲垣さんは、簡単にできないからこそおもしろいと話す。

「せわしない現代、時間がかかることをする耐性が衰えているかたが多い気がします。もちろん私もそうでした。すぐに結果が欲しい。ダイエット法でも、3日で必ず痩せますよ、という保証を求める。でも、ピアノのおもしろさはそのド対極にあると思います」

忍耐が欠かせないという大人のピアノ。挫折しないコツを尋ねると、「挫折したって全然いい」と稲垣さんは笑う。

稲垣えみ子さん
大変だけど自分で選んでやるから楽しい
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「続けたい人は続ければいいし、つらければやめていい。親に押し付けられた子供の習い事じゃないですからね。自分で選んでやるからこそ楽しいんだと思います。ピアノじゃなくても、何でもいいんじゃないでしょうか。料理だって散歩だって、あるいは『何もしない』ことだっていい。大事なことは、人は誰でも、自分がやりたいことを夢中になってやる自由が自分にはあると気づくことじゃないでしょうか。

私もそうだったからよくわかるんですが、そんな当たり前のことに気づけない一番の原因は、ものになって人に褒められたり、成果が出ることがいいという思い込みの中を私たちは生きているからなんじゃないでしょうか。

稲垣えみ子さん
評価など気にせず、好きなものにとことん取り組めることに幸せを感じている
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本当は、人の評価なんて関係ないんです。下手でもモノにならなくても、好きなものにとことん取り組むって、そのことそのものが幸せなんですよね。子供の頃は練習が嫌で嫌でピアノを投げ出しましたが、今はなんと練習することそのものが一番楽しいんですよね。成果主義、効率主義の常識とは関係のない世界に豊かなものがあると、ピアノは気づかせてくれたんです」

◆フリーランサー・稲垣えみ子さん

稲垣えみ子さん
フリーランサー・稲垣えみ子さん
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1965年生まれ。愛知県出身。朝日新聞社で論説委員、編集委員などを歴任。2016年に50歳で退社し、フリーランスに。著書に『魂の退社』『寂しい生活』『人生はどこでもドア』『一人飲みで生きていく』など。『もうレシピ本はいらない』で第5回料理レシピ本大賞エッセイ賞を受賞。今年1月、40年ぶりのピアノ体験を綴った『老後とピアノ』(ポプラ社)を出版。

撮影/浅野剛 取材・文/小山内麗香

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