エンタメ・韓流

松本伊代『センチメンタル・ジャーニー』が“奇跡の1曲”である理由 「歌謡曲と年齢」について考えてみた

大人へのカウントダウン、18才のユウウツ

成人式を迎える「20才(はたち)」は言わずもがな、人生の節目だ。私も覚えがあるが、18才あたりから「子どもでいれるのはあと少し」と心のカウントダウンが始まる。

岩崎宏美さんの『思秋期』はまさに、18才の秋、残り少ない10代を振り返り惜しむ表現が風流過ぎて泣く! 青春時代を四季にすると、18才は「秋」なのだ。

岩崎宏美さんは19才でも、年齢について歌った『二十才前(はたちまえ)』というシングルを出している。こちらは気持ち的に割り切れ、自立への期待も見える曲だ。

どちらも作詞は阿久悠さん。彼は岩崎宏美さんに理想的な「等身大の女の子」を感じ、彼女が放つ年齢限定の輝きを形に残しておきたかったんだなあと思う。

1990年代の大ヒット曲からも1曲。安室奈美恵さんの『SWEET 19 BLUES』(スウィート・ナインティーン・ブルース)。こちらも時代感と等身大の19才の戸惑いや本音がギュウギュウに詰まった名曲だ。

10代最後に訪れる“思秋期”を歌った(写真は1982年、Ph/SHOGAKUKAN)
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第2センチメンタル期、22才

歌謡曲における青春期のエピローグは20才ではなく22才だ。私は勝手に「第2センチメンタル期」と呼んでいる。

風の『22才の別れ』、谷村新司さんの『22歳』から感じる、大人になり変わった自分を知る切なさよ……。結婚適齢期が20代中盤だった昭和、「もう若くないしね」を言い訳にし、いろんなことを諦める時期だったのかも。今なら29才くらいの年齢設定でもじゅうぶん通じるだろう。

ザッと振り返ったが、さすが歌は若返りの妙薬。自分の若気の至りも思い出し「胸が苦しい!」と強めの地団太を踏めるくらい元気が戻ってきた。これを活用し、4月も頑張ろう。

1995年までご長寿でギネス認定されていた泉重千代さんは、70才から酒と煙草を始めたという。「17才」ならぬ「70才」! 世界最高齢プログラマーとして知られる若宮正子さんは60才でパソコンの勉強をし始めたそうだ。「NAI・NAI 16」ならぬ「YARU・YARU 60」!  私も歌の力を借り、これからもおおいにZIGZAGしたいと思う。

いつだって青春時代。人生100年時代ならば、そのくらいでちょうどいい。

◆ライター・田中稲さん

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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