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“見ない日はない性格俳優”大泉洋の豊富なキャリアが垣間見える…映画『ディア・ファミリー』で見事にハマった「手堅い演技」

大泉洋とは、見ない日はない性格俳優

もはや見ない日はない――そんなふうに思える俳優がいます。演技者としての技量ももちろん重要ですが、世間での支持率と作り手たちの間での支持率がともに高くなったとき、特定の俳優は“見ない日はない存在”となるのです。

本作で主演を務めている大泉さんは、日本でも屈指のそのような存在なのではないでしょうか。ここ10年ほどの活躍にフォーカスしてみると、朝ドラ『まれ』(2015年/NHK総合)にヒロインの父親という重要な役どころで出演しており、日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(2019年/TBS系)で単独主演を務め、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年/NHK総合)では源頼朝役に。

『青天の霹靂』(2014年)、『駆込み女と駆出し男』(2015年)、『アイアムアヒーロー』(2016年)、『恋は雨上がりのように』(2018年)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年)……と、ほとんど年に一本以上のペースで主演映画が公開されてきました。

『新解釈・三國志』(2020年)では豪華キャスト陣を率いて作品を大ヒットに導き、世界中で配信された『浅草キッド』(2021年/Netflix)も大きな話題を呼びました。今年は、4月の封切りから観客動員数と興行収入を伸ばし続けているビッグタイトル『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』に声優として参加。日常的に流れる広告なども含めると、大泉さんに触れることのない日のほうが珍しいというものでしょう。

その活躍ぶりはジャンルレス。なおかつ個性の強い役どころで、これまで多くのヒット作に貢献してきました。日本トップクラスの性格俳優であり、主演を務められる存在でもあるわけです。

“支え合い”が重要な作品で見せる手堅い演技

本作で演じる坪井宣政もまた、非常に個性の強い人物です。医療の知識ゼロの人間が人工心臓の開発に挑むだなんて、筆者には常軌を逸した考えのように思えます。もちろん、その根底には、ただ大切な娘を救いたいのだという切実な想いがある。けれども彼と同じような状況に置かれた場合、同じ考えを持つ人間がどれくらいいるでしょうか。

開発に「30年かかる」と言われれば、「じゃあ3倍頑張ればいい」と宣政は口にします。彼は何があってもあきらめずに挑む「胆力」と「行動力」という個性を持った人物なのです。

映画『ディア・ファミリー』 場面写真
(C)2024「ディア・ファミリー」製作委員会
写真8枚

しかしこれは“奇跡の実話”がベースにありますから、その範疇を超えるような非現実的な言動は許されていない。宣政の振る舞いはすべて、あくまでも私たちの生きる現実に繋がるものでなければなりません。彼の言動はおそらく多くの人にとって、突飛なものだと映るでしょう。ですがそれを大泉さんは、勢いや力技で表現することは許されていないわけです。ある意味すべてのパフォーマンスが、地に足の着いたものでなければなりません。

ですから『ディア・ファミリー』における大泉さんの演技には、“新しさ”のようなものはあまり見られないかもしれません。宣政の挑戦を、非常に手堅い演技によって表現しているわけです。

坪井家の面々をはじめとする多くの人々とのやり取りも重要で、誰かとの関係において大泉さんはピッチャーにもキャッチャーにもなる。この連携がうまくいくことによって“支え合い”が実現しているからこそ、本作は主人公が娘の余命宣告を機に医療器具の開発に心血を注ぐだけのものではなく、家族の愛の物語になっているのだと思います。

宣政は陽気で涙もろく、ときに感情的にもなります。つまりはとても人間くさい魅力を持った人物。俳優・大泉洋のこれまでのキャリアが、このひとつのキャラクターからは垣間見えるのです。

◆文筆家・折田侑駿さん

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
写真8枚

1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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