エンタメ・韓流

窪田正孝、鬼気迫るリアクションで恐怖へ誘う!齊藤工監督の主演作で体現した「平凡な男」にグイグイ引き込まれる

窪田正孝が体現するごく平凡な男性像

窪田さんといえば、現在公開中の『春に散る』、本作『スイート・マイホーム』、そして松岡茉優さんとのダブル主演作『愛にイナズマ』と、この夏から秋にかけて大役を務めた作品の公開が続きます。いまやエンターテインメント界の最前線を走り続けている俳優の一人だといえるでしょう。

『春に散る』では圧倒的な強さを誇るボクサー役で、『愛にイナズマ』ではどこか浮世離れしたところのある青年役。それらに対してこの『スイート・マイホーム』で演じているのは、家族の幸福を望むごく平凡な男性です。

映画『スイート・マイホーム』場面写真
(C)2023『スイート・マイホーム』製作委員会 (C)神津凛子/講談社
写真12枚

個性的な役どころにこそ俳優の力量が表れるという見方もあるかもしれませんが、筆者はこの平凡な、私たちが日常的に街角ですれ違っているであろう人物を演じるときにこそ、俳優の力量が問われるものだと思っています。重要なのは、私たちが何かを見聞きしたり感じたりしたときに、思わず取ってしまうリアクションを自然に表現できるかどうかです。

内面の変化をつぶさに表現

本作はホラー映画の側面だけでなくミステリー映画の側面も持っているため、物語の核への言及は避けなければなりませんし、ほんの些細な記述が重大なネタバレにも抵触してしまいかねないため注意が必要。つまりそれだけ、“恐怖”や“謎”の秘密が多く仕掛けられているわけです。

映画『スイート・マイホーム』場面写真
(C)2023『スイート・マイホーム』製作委員会 (C)神津凛子/講談社
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新居での家族の幸福を望んだだけなのに……。次から次へと起こる怪異に翻弄される窪田さんのリアクションは非常に生々しく、これが私たちを恐怖の時間へと引きずり込みます。

そういったシーンはいくつもあるのですが、少しだけ例を挙げるならば、賢二の周りで起こる事件を捜査する刑事とのやり取りが特に秀逸です。刑事やってきては口にする言葉は、いずれも賢二にとって信じ難いもの。たとえばそれは、思いがけない誰かの死であったりします。

映画『スイート・マイホーム』場面写真
(C)2023『スイート・マイホーム』製作委員会 (C)神津凛子/講談社
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画面いっぱいに映し出される窪田さんの表情は、視線が固まったり眉間にシワが寄ったりと、一つひとつは小さいけれども情報量が多い。声に関しても同じことで、喉の奥に何かがつかえて出てこないような状態をテクニカルに表現しています。

映画『スイート・マイホーム』場面写真
(C)2023『スイート・マイホーム』製作委員会 (C)神津凛子/講談社
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たとえば、心霊現象を前にしたときの人間のリアクションというものを、私たちはあまり知らないでしょう。けれども、何かを見聞きして「まさか……!」と驚く際、普段はやらないようなリアクションを人間は取ることがある。窪田さんのリアクションには鬼気迫るものがあり、焦りや不安といったものが内面に生じる瞬間をつぶさに表現してみせているのです。“窪田正孝=賢二”の内面の変化は、観客の一人ひとりに伝染することでしょう。

怪異は私たちの周りにも……

怪異というものは、私たちの周りにもつねに存在しています。それは霊的な現象によるものでしょうか。それとも人間の心というやっかいなものによるものでしょうか。

映画『スイート・マイホーム』場面写真
(C)2023『スイート・マイホーム』製作委員会 (C)神津凛子/講談社
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現実社会では陰惨な事件があとを絶たず、物価の高騰は止まらず、つねに誰かが誰かを妬んだり、ひどく恨んでいたりする。そして、「まさか……!」と思わずにはいられないことが次々に起こります。

このご時世、どんな怪異だって起きます。現れます。気を確かに持たなければなりません……。

◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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