不調改善

【がん検診、早期発見に欠かせない最新知識】乳がん、大腸がん、肺がん…受けるべき検診は?そのメリットとデメリットを専門家5人が解説

胸部X線検査は中止すべき?

女性の社会進出とともに罹患者が増加している肺がん。検診として推奨されているのは年1回の胸部X線検査だが、専門家たちの評価は厳しい。岡田さんは「受けても意味がないどころか、デメリットが大きすぎる」と一刀両断する。

「もともと胸部X線検査は結核を調べるために行われていたもので、肺がん検診には適さず、古い検診メニューが形骸化して残っているに過ぎない。もちろん、肺炎などの診断に必要な検査ですが、がん検診としては中止すべきです。加えて胸部X線は真正面からX線を浴びるので、放射線の害を直接的に受けやすい。

被ばくによる肺がんや胃がんの罹患リスクも懸念され、検診を受けた人は受けていない人より死亡率が高いというデータすらあります」(岡田さん・以下同)

レントゲンを撮っている人
胸部X線検査は不要?(Ph/PIXTA)
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何より問題は、検査に伴うリスクがありながら、受けざるを得ない状況が作り出されていることだ。

「労働安全衛生法で労働者は年に1回の胸部X線検査が義務付けられており(省略規定あり)、会社員なら受けないという選択肢はない。喫煙者が減っても日本人の肺がん罹患者は減らないといわれますが、過剰な検査による被ばくこそ最大の原因だと考えています」

尾崎さんは背景にある“利権”の存在を指摘する。

「胸部X線は、集団検診を実施するために全国をレントゲンを積んだ検診カーが走っていた昭和の時代から、検査をすることで利益を生んできた歴史があるため、簡単になくすことができない事情があります」

では、安全かつ的確に肺がんを調べるにはどんな検査が最適なのか。

「エビデンスが確立しているのは低線量CT検査。世界的には、血縁者に肺がん罹患者がいる人や喫煙者などリスクが高い人は、低線量CT検査が推奨されています」(尾崎さん)

ただし、CTにもデメリットはある。

「レントゲンよりCTのように精密検査になるほど、見落としを防げて早期発見につながる一方で、見つけなくてもいい変化を見つけるリスクもあります」(岡田さん)

CT検査
エビデンスが確立している低線量CT検査にもデメリットはある(Ph/PIXTA)
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バリウム検査は被ばく線量が大きい

女性の罹患者数4位の胃がんは、50才以上に対して2年に1回のバリウム検査、または内視鏡検査が推奨されている。だが岡田さんは、「バリウムはデメリットだらけ」だと指摘する。

「造影剤のバリウムをのみ、長時間にわたってX線を受けるので、放射線被ばく線量が大きいのがいちばんの問題です。

胸部X線1枚の被ばく線量は0.1ミリシーベルトですが、胃のバリウムは最大で100ミリシーベルトにもなる。これは胸部X線の1000倍近い数値です」(岡田さん)

バリウムが腸に停滞することで、腸に穴が開く「大腸穿孔」や腸閉塞になるリスクもある。

「まれに大腸穿孔が原因で人工肛門になることがあります。バリウム検査には、胃がんの死亡率を減少させるというデータはあるが、かなり古い調査です。

また、現在は内視鏡も普及しており、今後も内視鏡がより推奨されるでしょう」(尾崎さん)

室井さんも声をそろえる。

「とりわけ早期の胃がんはバリウムで見つけづらい。受けるなら内視鏡の方が効果的です。また、喉や食道のがん、静脈瘤や肝硬変があった場合、内視鏡検査によって一気に見つけることも可能です」

加えてバリウムで異常が見つかると、精密検査で内視鏡検査を受けることになる。バリウムを選ぶのはリスクがあるうえ“二度手間”でしかないのだ。

バリウム検査のキット
バリウム検査はデメリットが大きい(Ph/PIXTA)
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「内視鏡は苦しいというイメージを持っている人が多いですが、機材の進歩により検査に伴う苦痛は軽減されています。しかも、その場で生検に切り替えられるというメリットもあるので、どうせ受けるなら2~3年に1回の内視鏡検査を推奨します。ピロリ菌の感染有無も調べて、陽性なら除菌した方がいい。胃がんの主な原因はピロリ菌で、胃がん罹患者の9割は感染しています」(菊池さん)

尾崎さんもピロリ菌の感染有無を調べる重要性をこう話す。

「50~60代以上の人はピロリ菌に感染している人が多いですが、感染がなく、内視鏡検査で萎縮性胃炎がない人は胃がんにはかかりづらいと思って大丈夫。その場合、医師と相談して、内視鏡検査を受ける間隔を延ばすことも可能です」

新たに導入されたHPV検査単独法

子宮頸がんの主な原因はHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染だと考えられており、HPV自体は約8割の人が一生に一度は感染する。多くは自然にウイルスが排除されるが一部の人は持続感染し、数年~数十年かけてがんになる。

初期の状態では自覚症状が少なく、見つかるのが遅くなる特徴があるゆえ、検診をこまめに受けることが肝要になるが、受診するのがつらいという声も多い。埼玉県在住の主婦Bさん(34才)もそのひとり。

「検査を受けるときに足を開いていすに座りますよね。あの体勢がまずイヤですし、何とも言えない不快感がある。がん家系ではないし、年齢的にもまだいいかなと思って、どうしても間隔をあけてしまいます」

だが室井さんは、若い女性ほど受けるべきだと話す。

「昔は40~50代に多かったですが、発症のピークが20~30代と低下している。基本的に20才以上は2年に1回の細胞診が推奨されています」(室井さん)

ストレスを伴う検査だが、若いうちから頻繁に受けることがいちばんの予防になるというのが現状なのだ。しかし医学の進歩によって、その負担が軽減される可能性が出てきている。4月に厚労省が30代以上の女性を対象に、「HPV検査単独法」を新たに導入可能としたことで、5年に1回の検査になるかもしれない。若尾さんが解説する。

「まず、採取した細胞でHPVの感染を調べて、陰性の人は5年後の検診となります。陽性の場合は、これまでの子宮頸がん検診と同様に細胞診をします。細胞に異常がなくても、陽性の人は翌年もHPV検査を受けます。何よりのメリットは、HPVが陰性なら5年に1回の検診ですむこと。ただし流れが複雑なので、まだほとんどの自治体(市区町村)に導入されていない。いずれは検診方法を選択できる予定です」

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